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オピオイドによる絶縁
Insulated by opioids
SCIENCE SIGNALING
2 Jul 2024 Vol 17, Issue 843
DOI: 10.1126/scisignal.adr3505
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: lferrare@aaas.org
B. Yalçın, M. B. Pomrenze, K. Malacon, R. Drexler, A. E. Rogers, K. Shamardani, I. J. Chau, K. R. Taylor, L. Ni, D. Contreras-Esquivel, R. C. Malenka, M. Monje, Myelin plasticity in the ventral tegmental area is required for opioid reward. Nature 630, 677-685 (2024).
P. Mews, L. Sosnick, A. Gurung, S. Sidoli, E. J. Nestler, Decoding cocaine-induced proteomic adaptations in the mouse nucleus accumbens. Sci. Signal. 17, eadl4738 (2024).
オピオイドは依存症のフィードフォワードループにおいて、報酬回路に関わる神経軸索のミエリン絶縁を引き起こす。
依存症は、脳内のドパミン系報酬回路機能の持続的変化によって生じる。Yalçınらは、オピオイド依存症の発症段階で生じるそのような変化は、オリゴデンドロサイトによって部分的に媒介されていることを見いだした。オリゴデンドロサイトとは、軸索を取り囲む絶縁性の髄鞘(神経伝導速度を高めることができる)を形成するミエリンの産生細胞である。ミエリン鞘は神経活動を受けて変化し、神経回路の可塑性を促進する。マウスにおいて、腹側被蓋野(VTA:中脳の報酬経路に関わる部位)特異的なドパミン放出ニューロンの光遺伝学的活性化、またはオピオイドであるモルヒネの投与により、これらのVTAニューロンからのニューロトロフィン放出が引き起こされ、局所的にオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖および分化が刺激されることを見いだした(依存症との関連性が高い報酬経路の他の領域でも、高用量のモルヒネによってオリゴデンドロサイトの新生が刺激された。このことは、耐性により投与量を増量した場合、脳内の影響が空間的に増悪する可能性を示唆している)。これによって生じるVTA内の成熟オリゴデンドロサイトの増加は、VTAのドパミン作動性ニューロンにおいて軸索のミエリン形成の程度を高め、それによって神経活動とニューロトロフィンの放出が増加した。マウスにおけるこれらの影響とそれに伴う報酬探索行動は、オリゴデンドロサイトの新生を遺伝学的に遮断することにより阻害された。マウスへのコカイン投与によってもオピオイド投与と同様の影響がみられたことから、薬物の乱用による報酬回路の増強には共通の機構があることが示唆された。これらの知見はさらに、中毒性の薬物が脳内の報酬回路をどのようにハイジャックしているかを実証している。報酬回路全体のこれら空間的および時間的な機構(本誌ArchivesのMewsらの記事も参照)をさらに理解することが、依存症および薬物使用障害の、より優れた、かつ、より持続的な治療法につながると考えられる。