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微生物学
耐性に対するラジカルなアプローチ

Microbiology
A Radical Approach to Resistance

Editor's Choice

Sci. Signal., 23 February 2010
Vol. 3, Issue 110, p. ec57
[DOI: 10.1126/scisignal.3110ec57]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

抗生物質は細菌性病原体に対する永遠の勝利を可能にするだろうという楽観的な展望は、抗生物質耐性微生物の出現による挑戦を受けている。 Kohanskiらは、致死量以下の抗生物質による処理によって、自然発生的な耐性変異株の選択だけでなく、突然変異発生率の増大によって抗生物質耐性株 の発生が促進されることを示し、細菌の耐性に関するわれわれの理解に新たなひねりを加えた。複数の抗生物質が細菌の活性酸素種(ROS)産生を刺激するこ と、ROSがDNA損傷を引き起こすことに注目し、Kohanskiらは、大腸菌(Escherichia coli)MG1655株 を低濃度の抗生物質で処理し、抗生物質リファンピシンに対して耐性のコロニーのその後の生育に基づいて変異率を評価した。1 mg/mlのカナマイシン(アミノグリコシド系抗生物質)による処理では変異率はわずかに増大しただけであったが、1 mg/mlのアンピシリン(β-ラクタム系)または50 ng/mlのノルフロキサシン(キノロン系)による処理は、1 mMの過酸化水素が誘導する変異率に相当するほどの変異率をもたらした。蛍光指示薬を用いた解析から、変異率の変化はROS産生と相関していることが明ら かになった。さらに、ヒドロキシルラジカルのスカベンジャーであるチオ尿素は、過酸化水素または抗生物質による処理で誘導される変異をかなり減少させた。 また、嫌気条件下で生育した細菌では、抗生物質は変異率にほとんど影響を及ぼさなかった。1 ?g/mlのアンピシリンの存在下で5日間培養すると、アンピシリン、ノルフロキサシン、カナマイシン、テトラサイクリン、およびクロラムフェニコールの 最小生育阻止濃度は増大した。この影響は、嫌気条件下の生育では低減した。興味深いことに、アンピシリン処理後に異なる抗生物質を含む寒天培地上で逐次選 択したところ、一部のアンピシリン処理細菌は、アンピシリンに対する耐性を生じることなしに、他の抗生物質(ノルフロキサシンまたはカナマイシン)に対す る耐性を生じたことが明らかになった。したがって、著者らは、致死量以下の抗生物質に対する曝露が耐性株の出現をもたらす機構の1つには、ROSに依存す る変異率の増大が関与しており、致死量以下の1つの抗生物質に曝露すると、別の抗生物質に対する耐性が独立的に変化する可能性があると結論づけている。

M. A. Kohanski, M. A. Depristo, J. J. Collins, Sublethal antibiotic treatment leads to multidrug resistance via radical-induced mutagenesis. Mol. Cell 37, 311-320 (2010). [PubMed]

E. M. Adler, A Radical Approach to Resistance. Sci. Signal. 3, ec57 (2010).

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