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発生生物学
女王にふさわしい食物
Developmental Biology
Food Fit for a Queen
Sci. Signal., 31 May 2011
Vol. 4, Issue 175, p. ec151
[DOI: 10.1126/scisignal.4175ec151]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
ロイヤルゼリーは、ミツバチの巣の働きバチによって産生されるタンパク質、糖質、脂質、およびミネラルを含有する食物で、新たな女王バチの発生を刺激する(Robinsonの解説参照)。鎌倉(Kamakura)は、ロイヤルゼリーの有効性が貯蔵後に失われることに着目して、女王バチの発生に伴う表現型の変化(発育期間の短縮、成体サイズの増大、卵巣サイズの増大)を促進する点においてロイヤルゼリーと同等の有効性を示すロイヤラクチン(royalactin)というタンパク質を単離した。ロイヤラクチンのこのような作用に関与する可能性のある経路について詳しく調べるために、Kamakuraは女王や働きバエをもたないキイロショウジョウバエにロイヤラクチンを餌として与え、ハエが体重と体長の増加、繁殖力の高まり、寿命の延長という女王バチにみられるすべての特徴を示すことを見出した。変異を有するハエ、あるいは様々なシグナル伝達経路を乱すようなRNA干渉(RNAi)トランスジーンを有するハエを用いて、Kamakuraはロイヤラクチンが脂肪体の上皮増殖因子受容体(EGFR)を介してシグナル伝達を行うことを特定した。体サイズに対する効果には、EGFRによって仲介され、PI3K-TOR-S6K(ホスファチジルイノシトール3キナーゼ-ラパマイシン標的-S6キナーゼ)を経由するシグナル伝達が必要であった。この経路はタンパク質合成を促進して増殖を仲介することで知られている。発育期間の短縮には、EGFRの下流にあるマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の活性化が必要であり、これはステロイドホルモンの20-ヒドロキシエクジソンの産生の増加によって仲介された。EGFRシグナル伝達は、幼若ホルモンの産生、卵黄タンパク質をコードする遺伝子の転写、および繁殖力を促進した。しかし、このような作用はMAPK経路あるいはPI3K-TOR-S6K経路の阻害による影響を受けないことから、EGFRシグナル伝達にはこのような過程で機能する別経路の存在が示唆される。ロイヤラクチンが寿命延長をどのように促進しているのかも、未解決のままである。ショウジョウバエから得られたこの情報を味方につけて、Kamakuraはミツバチの研究に戻り、RNAiおよび選択的経路を阻害することによって、EGFRやショウジョウバエで同定された経路が、ロイヤラクチンに応答するミツバチの女王の発生に伴う体サイズの増大と発育期間の短縮に関与することを示した。
M. Kamakura, Royalactin induces queen differentiation in honeybees. Nature 473, 478-483 (2011). [PubMed]
G. E. Robinson, Royal aspirations. Nature 473, 454-455 (2011). [Online Journal]
N. R. Gough, Food Fit for a Queen. Sci. Signal. 4, ec151 (2011)