代謝
有益な経路の始まり

Metabolism
Starting a Beneficial Path

Editor's Choice

Sci. Signal., 7 February 2012
Vol. 5, Issue 210, p. ec40
[DOI: 10.1126/scisignal.2002928]

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

S.-J. Park, F. Ahmad, A. Philp, K. Baar, T. Williams, H. Luo, H. Ke, H. Rehmann, R. Taussig, A. L. Brown, M. K. Kim, M. A. Beaven, A. B. Burgin, V. Manganiello, J. H. Chung, Resveratrol ameliorates aging-related metabolic phenotypes by inhibiting cAMP phosphodiesterases. Cell 148, 421-433 (2012). [Online Journal]

R. I. Tennen, E. Michishita-Kioi, K. F. Chua, Finding a target for resveratrol. Cell 148, 387-389 (2012). [Online Journal]

赤ワイン中に認められるポリフェノール「レスベラトロール」は、加齢および加齢に伴う代謝疾患に対して、カロリー制限と同様の有益な効果をもたらすようである。このようなレスベラトロールの効果には、エネルギー感知酵素であるAMPK[アデノシン5'-一リン酸(AMP)-活性化プロテインキナーゼ]の下流にあるNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化型)-依存性デアセチラーゼ「Sirt1」が関わっていると考えられる。しかしレスベラトロールの直接の標的、およびレスベラトロールがAMPKを活性化する経路は不明である(Tennenらの論文参照)。Parkらは、マウスにスベラトロールを経口投与によりすると骨格筋と白色脂肪組織中のサイクリックAMP(cAMP)量が増大すること、および培養C2C12筋管細胞を直接レスベラトロールに曝露すると細胞内cAMPが増加することを見いだした。薬理学的解析とノックダウンによる解析によって、レスベラトロールがcAMPエフェクターであるEpac1を介してAMPKを活性化すること、すなわちレスベラトロールがC2C12筋管細胞のEpac活性を亢進させることが示唆された。また、レスベラトロールの存在の有無でEpac1活性を解析することによって、この活性化能は間接的なものであることが確認された。AMPKはNAD+量を増大させるが、このようなレスベラトロールの作用は、Epac1に対するsiRNAによって遮断された。また、Sirt1 の標的であるPGC-1α(ミトコンドリアのバイオジェネシスと呼吸を促進する転写コアクチベーター)の脱アセチル化を促すレスベラトロールの作用も、Epac1に対するsiRNAによって遮断された。逆に、Epacのアゴニストは筋管細胞のミトコンドリア含量と酸素消費量を増大させ、レスベラトロールと同様に、活性酸素種の量を減少させた。AMPKの活性化は、LKB1(肝キナーゼB1)またはCamKKβ(カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼキナーゼβ)によるリン酸化に依存している。レスベラトロールによるEpacの活性化がどのようにAMPKの活性化を引き起こすのかを決定するために、著者らはカルシウムのキレート化、ノックダウン、および薬理学的解析を組み合わせて用い、この活性化がホスホリパーゼC、リアノジン受容体2型およびCamKKβを介して起こることを見いだした。レスベラトロールがcAMPをどのようにして増大させるかという問題に立ち帰って、著者らは、レスベラトロールががcAMPを合成する酵素の活性に影響を及ぼすのでは無く、数種類のホスホジエステラーゼ(PDE:サイクリックヌクレオチドを加水分解する酵素)の競合的阻害剤として働くことを特定した。特筆すべきは、PDE4阻害薬であるロリプラムが、in vitroでレスベラトロールと類似した活性(Epac1を介してAMPKのリン酸化と活性化を刺激し、NAD+量を増大させ、PGC-1αの脱アセチル化を促進し、ミトコンドリアのバイオジェネシスを亢進させる)を有するだけでなく、in vivoでも有益な作用を再現したことである。ロリプラムが投与されたマウスは運動耐性が増強し、代謝活性が亢進し、耐糖能が亢進して食事性肥満に耐性となった。このような結果から、著者らは、レスベラトロールはホスホジエステラーゼの競合阻害薬として作用し、加齢に伴う代謝疾患に対して有益な効果をもたらす経路を起動させると結論づけた。

E. M. Adler, Starting a Beneficial Path. Sci. Signal. 5, ec40 (2012).

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2012年2月7日号

Editor's Choice

代謝
有益な経路の始まり

Research Article

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