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血管生物学
喫煙はいかにして動脈瘤を引き起こすのか

Vascular Biology
How Smoking Leads to Aneurysms

Editor's Choice

Sci. Signal., 19 June 2012
Vol. 5, Issue 229, p. ec168
[DOI: 10.1126/scisignal.2003316]

Ernesto Andrianantoandro

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

S. Wang, C. Zhang, M. Zhang, B. Liang, H. Zhu, J. Lee, B. Viollet, L. Xia, Y. Zhang, M.-H. Zou, Activation of AMP-activated protein kinase α2 by nicotine instigates formation of abdominal aortic aneurysms in mice in vivo. Nat. Med. 18, 902-910 (2012). [PubMed]

K. Sugamura, J. F. Keaney, Jr., Nicotine: Linking smoking to abdominal aneurysms. Nat. Med. 18, 856-858 (2012). [PubMed]

喫煙は腹部大動脈瘤(AAA)の主要な危険因子である。Wangらは、アンジオテンシンII(AngII)の注入によって作製されるマウスのAAAモデルと同様に、ニコチンもAAAを誘発することを見いだした。アデノシン一リン酸(AMP)依存性プロテインキナーゼ(AMPK)-α2をコードする遺伝子が欠損すると、ニコチンまたはAngIIを投与したマウスにおけるAAAの発症率は低下したが、AMPK-α1をコードする遺伝子の欠損では低下しなかった。ニコチンまたはAngIIを投与したマウスの摘出大動脈では、AAA形成に寄与するマトリックスメタロプロテイナーゼ2(MMP2)は高い活性、mRNA量およびタンパク質濃度を示したが、AMPK-α2をコードする遺伝子をノックアウトしたマウスではこのような活性や量の増大は見られなくなった。ニコチンまたはAngIIで処理したヒト血管平滑筋細胞(VSMC)では、AMPK-α2の活性とThr172でのリン酸化が亢進するとともに、MMP2の活性、およびmRNAとタンパク質の量が増大した。低分子干渉RNA(siRNA)またはコンパウンドCによってAMPK-α2を阻害すると、ヒトVSMCにおけるMMP2に対するニコチンやAngIIの影響が解消された。MMP2の発現に必要な転写因子AP-2αをノックダウンすると、ヒトVSMCにおけるニコチンやAngIIによって誘導されるMMP2の量および活性の増大が阻止された。AMPK-α2はAP-2αとともにVSMCの核に存在していたが、AMPK-α1は認められなかった。細胞溶解液および精製タンパク質を用いた免疫沈降法による研究によって、AMPK-α2とAP-2αが相互作用することが示された。AP-2αは、ニコチンまたはAngIIで刺激した細胞内でリン酸化された。一方、AMPK-α2はin vitroにおいてAP-2αのSer219をリン酸化した。ヒトVSMCにおけるS219A突然変異を有するAP-2αの発現が、ニコチンまたはAngIIによるMMP2の活性および量の増大を解消した。このように、ニコチンまたはAngIIは、AMPK-α2の活性化、およびAMPK-α2がAP-2αと結合してリン酸化する場である核内への移行を促進することによって、MMP2の異常発現とそれに起因する細胞外マトリックスの分解を引き起こし、AAAの発症に寄与すると考えられる。このような分子標的の阻害は有望な治療法をもたらす可能性がある(SugamuraとKeaneyによるコメント参照)。

E. Andrianantoandro, How Smoking Leads to Aneurysms. Sci. Signal. 5, ec168 (2012).

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2012年6月19日号

Editor's Choice

血管生物学
喫煙はいかにして動脈瘤を引き起こすのか

Research Article

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