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生理学
TRPV4を標的とする代謝性疾患の治療
Physiology
Targeting TRPV4 to Treat Metabolic Disease
Sci. Signal., 2 October 2012
Vol. 5, Issue 244, p. ec253
[DOI: 10.1126/scisignal.2003655]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
L. Ye, S. Kleiner, J. Wu, R. Sah, R. K. Gupta, A. S. Banks, P. Cohen, M. J. Khandekar, P. Boström, R. J. Mepani, D. Laznik, T. M. Kamenecka, X. Song, W. Liedtke, V. K. Mootha, P. Puigserver, P. R. Griffin, D. E. Clapham, B. M. Spiegelman, TRPV4 is a regulator of adipose oxidative metabolism, inflammation, and energy homeostasis. Cell 151, 96-110 (2012). [Online Journal]
脂肪組織には2種類ある。白色脂肪組織は脂質を貯蔵するのに対して、褐色脂肪組織はミトコンドリアの活動をアデノシン三リン酸の合成から脱共役させることによって熱を放散する。転写コアクチベーターのPGC-1α[ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPARγ)、コアクチベーター1α]とミトコンドリア脱共役タンパク質UCP1は、褐色脂肪細胞に豊富に存在し、寒冷曝露やアドレナリン作動性シグナル伝達など熱産生を刺激する条件によって誘導することができる。Yeらは、Pgc1αmRNAの量を増大させる化合物に関して化合物ライブラリーを用いて白色脂肪細胞株をスクリーニングし、TRPV(一過性受容器電位V型)ファミリーのカルシウムチャネルのアンタゴニストを同定した。TRPV4が脂肪細胞株ではTRPVファミリーのなかで最も豊富であり、TRPV4のノックダウンによってPgc1αとUcp1のmRNAが増大した。このことは、TRPV4が白色脂肪の「褐色化」を制限する働きをしている可能性を示唆する。マイクロアレイ解析によって、この白色脂肪細胞株ではTRPV4のノックダウンが炎症性サイトカインとケモカインのmRNAの量と産生を低下させることも示された(これは定量的逆転写PCRによって確認された)。細胞をマイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路の特異的阻害剤の存在下でTRPVアゴニストで処理することによって、ERK経路の活性化がTRPV4によるPgc1α発現の抑制に必要であることが示された。TRPV4欠損マウスは、皮下脂肪中のUCP1のmRNAとタンパク質の増加を示した。これらのTRPV4ノックアウトマウスは、通常の餌が与えられたときには野生型と同じ大きさであったが、体重増加は抑制され、UCP1陽性脂肪細胞は小型で数が多く、高いエネルギー消費量を示し、脂肪組織内の免疫細胞のマーカーが減少していた。食餌誘導性肥満マウスにTRPV4アンタゴニストを投与すると、脂肪組織中の熱産生遺伝子の発現が亢進し、炎症性マーカーの発現が低下し、耐糖能が改善した。このように、TRPV4アンタゴニストの開発は、代謝性疾患に対抗する有効な戦略であるかもしれない。
N. R. Gough, Targeting TRPV4 to Treat Metabolic Disease. Sci. Signal. 5, ec253 (2012).