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神経科学
甘味の中の苦味を感知する
Neuroscience
Sensing the Bitter in the Sweet
Sci. Signal., 27 August 2013
Vol. 6, Issue 290, p. ec199
[DOI: 10.1126/scisignal.2004680]
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
Y. T. Jeong, J. Shim, S. R. Oh, H. I. Yoon, C. H. Kim, S. J. Moon, C. Montell, An odorant-binding protein required for suppression of sweet taste by bitter chemicals. Neuron 79, 725–737 (2013). [Abstract]
S. Lvovskaya, D. P. Smith, A spoonful of bitter helps the sugar response go down. Neuron 79, 612–614 (2013). [Abstract]
ほとんどの食物には複雑な風味があり、食べ物の好みは、生み出される味覚と嗅覚の統合によって決定される。ショウジョウバエは、匂い物質または味物質の感知を研究するためのモデル系となる。ショウジョウバエは甘味に引き寄せられ、苦味を忌避し、これらは味感覚子(味覚器の細胞)の異なるニューロンと受容体によって検出される。感覚子の細胞外液には分泌タンパク質が含まれ、匂い物質結合タンパク質(OBP)と呼ばれる一群などがある。OBPの1つはフェロモン結合タンパク質として機能し、この化学物質の検出に必要とされる(LvovskayaとSmithを参照)。Jeongらは、苦味化学物質と甘味化学物質(糖)を混合してハエに与えたときに、前者が後者への誘引を抑制する分子機構を検討した。感覚子においてもっとも高く発現している4つのOBPコード遺伝子それぞれをノックアウトしたトランスジェニックハエの溶液嗜好を解析することにより、OBP49aが、いくつかある苦味化合物の1つを含む糖溶液を回避するために必要であることが確認された。味覚器の電気生理学的記録により、変異ハエでは野生型ハエと比べて、糖誘導性活動電位の苦味化学物質による抑制が低下することが示された。野生型動物においてObp49aが発現していたアクセサリー細胞である鞘生細胞に、この遺伝子を遺伝子導入で発現させることによって、または、糖活性化ニューロンにおいて細胞膜に係留する改変型を発現させることによって、抑制反応はレスキューされた。表面プラズモン共鳴法により、OBP49aは、いくつかの苦味化学物質に用量依存的に直接結合することが示された。蛍光タンパク質相補試験では、OBP49aと味覚受容体GR64aが近接していることが示唆され、この結果は、膜係留によるレスキュー実験と一致した。このようにOBP49aは、苦味化学物質結合タンパク質として糖活性化味覚受容体の活性を直接抑制し、甘味化学物質と苦味化学物質の混合物の回避を仲介する働きをすると考えられる。
N. R. Gough, Sensing the Bitter in the Sweet. Sci. Signal. 6, ec199 (2013).