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酪農食品科学特論 - 機能性ミルクタンパク質実験講座 - 改訂版

記事ID : 13136

I.構造編-3.抗血清・抗体の作製


抗血清を用いる目的

得られたタンパク質が目的の物質かどうかを同定するには、時にはかなりの困難を伴います。精製して得られた画分のせめて一部分のアミノ酸配列でも決定できれば、既知タンパク質のアミノ酸配列と比較して同定ができます(アミノ酸配列の決定については9章を参照)。また、精製タンパク質のプロテアーゼ消化によるペプチドマップからも同定する方法が開発されています(第8章を参照)。しかし、免疫化学的方法すなわち目的のタンパク質に対して特異的な抗体を入手し、それを用いて同定することは非常に有効な手段である上に簡便でもあり、さらに定量目的にも用いることが出来ます。その他に複雑な混合物系で目的物だけを検出することが可能で、たとえば経口的に摂取したラクトフェリンが消化管内でどのように分解されているのかを追跡するためには、抗体を用いた分析は有効な手段となります。

 

 

抗血清の作製

上記の目的のために、ラクトフェリンを抗原(antigen)とし、それに対する抗体を得るためにウサギ、マウス、ウマ、ヤギ、ニワトリ、モルモットなどに免疫し、体内で抗体(antibody)を産生させます。その際、抗体産生を促すためにフローイントアジュバント(Freund adjuvant)などの免疫補助剤を用います。数回の免疫後、採血をして血清中に含まれる抗体の力価を測定します。免疫に用いる動物および必要量によって採血方法は変わります。例えばマウスでは眼窩静脈から毛細管を用いて採血します。ウサギでは耳静脈からあるいは心臓穿刺によって採血します。十分に抗体価があがったら全放血させ、血液を静置して血清は血餅を分離します。抗体を含む血清すなわち抗血清は、アジ化ナトリウムなどの保存剤を入れて小分けし、使用時まで低温で保存します。

 

 

抗体の精製

上記のようにして得られた抗血清はポリクローナル抗体を含み、そのまま各種の免疫化学的実験に用いることができますが、目的によっては血清中に含まれる抗体すなわち免疫グロブリン(immunoglobulin, Ig)を精製して用います。抗体の精製にはProtein AやProtein Gによるアフィニティークロマトグラフィーが多用されますが、塩析法やイオン交換クロマトグラフィー法でも分離でき、量や目的によって使い分けます。

たとえば、抗血清(ポリクローナル抗体)を作成しても、目的物以外の物質に対する抗体が生成する場合があります。これは免疫に用いた抗原に不純物として含まれていた物質に対する抗体も出来るためです。これを除くには、本当に純粋な抗原物質で固定化カラムを作成して、吸着する抗体成分だけを分取します。あるいは不純物として含まれている物質が明らかなときは、その不純物を固定化したカラムを作成し、そのカラムを通過する成分だけを用います。これはアフィニティークロマトグラフィーの一種です。不溶性の抗原抗体複合体を形成する場合には、遠心分離操作で取除くことも可能です(第4章参照)。

 

 

抗体価の測定

抗体価(力価)の測定方法としてこれまではOuchterlony法が用いられてきました。この方法は1-1.5%(w/v)濃度で生理食塩水または中性pHの緩衝液に溶かし溶融させた寒天(agar)またはアガロース(agarose)で作成した厚さ1.5 mm程度のゲルに、抗原穴(直径2 mm程度)とその周囲に希釈抗血清を入れる穴を通常は6個、5-10 mm 間隔で作り、抗原と抗血清が拡散して出会いその結果生じた沈降線の位置から判定するものです。しかし最近はもっぱらELISA法(enzyme-linked immunosorbent assay)が用いられるようになりました。

 

 

モノクローナル抗体の作製

抗原分子が大きい場合には、抗体が認識する抗原分子の部位は一般に複数あります。それらの部位の内、特定部分だけを特異的に認識する抗体がモノクローナル抗体(monoclonal antibody) です。その調製法は図3-1に示したようにマウス腹腔内にアジュバントと混合した抗原を注射し、十分に抗体価が上がった時に脾臓を摘出し、そこから得たB細胞とミエローマ細胞とで融合細胞(ハイブリドーマ)を作成します。次いで融合細胞の培養、抗体産生細胞のスクリーニング、クローニングを行ない、目的抗体を産生する融合細胞だけを培養フラスコ中で増殖させ、培養液上清中に分泌された抗体を得ます。


図3−1.モノクローナル抗体の調製方法

産生された抗体のクラス、サブクラスを判定するためには、それぞれのクラスあるいはサブクラスに特異的に反応する抗体を用います。なお、このようにして得られた抗体が認識する抗原分子内の部位、すなわち抗体結合部位を抗原決定基(antigenic determinant)あるいはエピトープ(epitope)といいます。

 

商品紹介:ラクトフェリン モノクローナル抗体

Hycult Biotechnology B.V.略号:HCB
本講座で取り上げられている抗体は、オランダのHycult Biotech (Former Hycult biotechnology)(略号:HCB)から発売されており、日本ではコスモバイオがお届けしています。ご照会ください。
品名 メーカー 品番 包装

Anti Lactoferricin B, Bovine (Mouse) Unlabeled, 5F12.1.2

HCB HM4012 100 UG

Anti Lactoferrin (C-lobe), Bovine (Mouse) Unlabeled, a-bC-lobe

HCB HM4013 100 UG

ペプチドを抗原とする場合

ラクトフェリンは一本鎖ペプチドからなるタンパク質ですが、2つのローブ(lobe)から構成されます。N末端アミノ酸残基を有する側をNローブ(N-lobe)、C末端側をCローブ(C-lobe)といいます。各ローブに対して特異的なモノクローナル抗体を得るために、Nローブの一部であるラクトフェリシンと、Cローブをそれぞれ用いてマウスの免疫を行ないました。ラクトフェリシンを免疫する場合は担体としてのタンパク質keyhole limpet hemocyanin (KLH)を架橋試薬1-ethyl- 3-(3-dimethylamino propyl) carbodiimide/ HClを用いてカップリングさせて用いました。担体としてはその他に血清アルブミンや特殊な合成ペプチドも用いられます。

なお、タンパク質のアミノ酸配列が既知である場合に、その一部のアミノ酸配列を持つペプチドを合成して抗原として用い、抗体を作る場合があります1)。たとえば目的とするタンパク質を精製することが非常に困難な場合などです。そのような場合にはまずC末端領域を抗原とすることが推奨されています。N末端を含む部位を抗原とするには、末端やあるいはその近辺に何らかの修飾を受けて(ブロックされて)いる部位が無く、また疎水性でないことが必要であることなどが、経験的に知られています。両末端部位がふさわしくない場合、中間の配列について、hydrophobicity, surface probability, antigenicity index(第12章を参照)などを参考にして検索します。また、βターン(第14章参照)領域は分子の外側を向いていることが多いということで、抗原として用いるのにふさわしいと考えられています。

 

 

表3-2.ヒトおよびウシの免疫グロブリンの種類(クラス・サブクラス)2)
種類
ヒト IgG (IgG1, IgG2, IgG3, IgG4), IgD, IgE, IgA, sIgA, IgM
ウシ IgG (IgG1, IgG2), IgA, sIgA, IgM

 

 

抗体は免疫グロブリン

これまで抗体について述べましたが、抗体として機能している分子は免疫グロブリンです。自由界面型電気泳動法 (Tiselius 電気泳動)で分析した場合にγ領域に分離ピークが観察されたことから、γグロブリンともよばれていました。免疫グロブリンにはさまざまなクラス、サブクラスがあり(表2-1)、それぞれの抗原性によって識別されました。また、およその分子量がそれぞれ50 kDa(約500残基) のH鎖と25 kDa(約215残基)のL鎖それぞれ2本づつから構成されています。各鎖はジスルフィドで結合しています。その分子モデルを図3-2に示しました。


図3-2. 免疫グロブリン(IgG)の分子モデル (1IGY)

補足

a)Bリンパ球はB-cell、B細胞ともいいます。同様にTリンパ球もT-cell、T細胞ともいいます。

b)生体内で抗体産生に携わるT細胞が認識する部位もエピトープと呼ばれます。なお、抗体や免疫関連細胞がエピトープを認識し結合する部分はパラトープ(paratope)といいます。

c)ラクトフェリシンは26残基(17-42)から成る抗菌性ペプチドで、ラクトフェリンをペプシン分解して得られます。

参考図書

1)「抗ペプチド抗体実験プロトコール−ペプチド合成からタンパク質機能解析まで−(細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ)」大海・辻村・稲垣著、14-24、秀潤社(1994)
2)小山・大沢「免疫学の基礎」東京化学同人(1989)

「役にたつ免疫実験法(第二版)」西岡久壽彌/監修・真崎知生/編、講談社(1994)
「新生化学実験講座1タンパク質-VI 合成および発現」日本生化学会編、東京化学同人(1992)
「新生化学実験講座12分子免疫学-III」日本生化学会編、東京化学同人(1992)
「新生化学実験講座1タンパク質-I」日本生化学会編、東京化学同人(1990)
「免疫学イラストレイテッド」(原書第2版)多田富雄監訳、南江堂(1990)
「生化学実験講座1タンパク質-I」日本生化学会編、東京化学同人(1976)

問題

問1.ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体を用いる際のそれぞれのメリットとデメリットを述べて下さい。

問2.Protein AおよびProtein Gが抗体精製に用いることの出来る理由を述べて下さい。

問3.抗血清を作成する場合に一般に抗原となり得る物質をあげて下さい。

問4.抗原と抗体との結合を動力学(kinetics)的に解析するモデル系を組むために、ジニトロフェノール(DNP)に対する抗血清を作製する必要がありました。どのようにしたら免疫動物がDNPに対する抗体価をあげるようになるでしょうか。また、このような低分子物質を抗原となる場合、何と呼びますか。

問5.代表的なアジュバントの組成とその働きを述べて下さい。

問6.血清と血漿の違いを述べて下さい。また、血液が凝固しないようにするにはどのような処理をしたらよいか列挙して下さい。採血後しばらく凝固しないようにし、その後に凝固させたい場合はどのような非凝固剤を用いますか。

問7.モノクローナル抗体を産生する融合細胞を作成するとき、B細胞とミエローマ細胞を用いますが、その理由を述べて下さい。また、融合操作のポイントは何ですか。

問8.免疫された動物の体内で抗体が産生されるメカニズムを簡潔に述べて下さい。また、さまざまな予期せぬ異物を抗原として認識する抗体を生体が作り出すことのできるメカニズムは現在どのように考えられていますか。

問9.免疫された動物が抗体すなわち免疫グロブリンを体内で産生する場合、IgG, IgA, IgMなどの各クラスで産生される順序、あるいは度合いに違いがありますか。

問10.抗体が抗原を認識して結合するためには、どのような相互作用が働いていますか。

問11. 表3-2ではヒトとウシの免疫グロブリンの種類を挙げていますが、その他の動物についてもどのような種類の免疫グロブリンが見出されているか調べて下さい。

提供:北海道大学名誉教授 島崎 敬一

(2014年7月 改訂)

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