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酪農食品科学特論 - 機能性ミルクタンパク質実験講座 - 改訂版

記事ID : 13137

I.構造編-4.抗体を利用した定性・定量法


沈降反応

抗原抗体反応では抗原と抗体の比が当量点の範囲にある場合、生じた複合体が凝集して最終的に不溶物を形成します。これを沈降反応といい、可視的な観察が可能です。たとえば試験管による一次元や寒天ゲルを用いた二次元の沈降反応(Ouchterlony法)、あるいは抗体(抗血清)含有寒天を用いた沈降反応や、免疫電気泳動(immunoelectrophoresis)などです。また抗原を定量する方法として、一元平板免疫拡散法(single radial immunodiffusionあるいはMancini法という)、免疫電気拡散法(immuno- electrodiffusionまたはロケット法という)、あるいは交差免疫電気泳動法(crossed immuno electrophoresis)などがあります。

 

 

凝集反応

免疫電気泳動は多くの混在する成分を解析するのに適した方法です。しかし、これらの方法は抗血清を比較的多く(〜100μl)消費します。しかし抗血清や抗体を用いた凝集反応は、たとえばラテックス凝集反応など、抗原を検出する非常に鋭敏な方法として使用されているものもあります。なお、抗原に抗体が結合しても、可溶性の複合体しか形成されず凝集が認められない場合には、ラジオイムノアッセイを組み合わせるなどの工夫をしなければなりません。

 

 

抗体を用いた精製法

夾雑物が存在している場合でも、抗体は特定の抗原と特異的に反応し複合体を形成するため、これを利用して目的物質を分離することができます。形成された複合体が不溶性の場合は、遠心分離操作で沈殿物を分離した後に、抗原と抗体を解離させて混合物中から目的物、すなわち抗体に結合性を示す物質を単離する方法があり、免疫沈降法(immunoprecipitation)と呼ばれます。また、沈降性の複合体を生成しない場合でも、さまざまな担体表面に抗体を固定化し、分離だけではなく分析にも応用されています。たとえば抗体を担体に固定化し、これを用いたアフィニティクロマトグラフィーは汎用されています。一般には中性のpHで低イオン強度の緩衝液を用いると抗原抗体複合体が形成され、0.1 M 酢酸溶液などで解離させて溶出します。

 

 

ELISA法

ELISA法は抗体と反応する物質を検出する非常に鋭敏な方法の一つで、また定量にも威力を発揮します。96穴のプラスチック製プレート(マイクロプレート)を反応容器として用います。各穴に抗原を含む試料を吸着させ、次いで抗体(一次抗体という)を抗原に結合させて、結合した抗体量を測定して抗原量を推定する方法です。目的の抗原に特異的に結合した抗体を検出・定量するために、酵素標識した抗免疫グロブリン抗体(二次抗体という)を用います。二次抗体としては、一次抗体を作成した動物とは異なる動物を用いて免疫して得られた抗体を用います。

上記の標識酵素としては西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase)、βガラクトシダーゼ(β-galactosidase)などと、それらの酵素反応によって呈色する色素が基質として用いられます(表4-1参照)。反応後の発色の度合いは、ELISAプレート読取り専用の分光器(マイクロプレートリーダー)を用いて定量します。なお、検体中の抗原を検出あるいは定量するには、まず目的物質に対する抗体をマイクロプレート穴に吸着させ、次いで試料を添加して含まれる抗原だけを抗体に結合した形で保持させた後に、上述の一次抗体、二次抗体を反応させて定量するサンドイッチ法(sandwich ELISAまたはdouble antibody ELISA)が主に用いられます。

 

 

ウェスタンブロット法

SDS-電気泳動を行った後、泳動ゲル内のタンパク質をニトロセルロース膜やPVDF膜などへ転写し、以降の操作で妨害とならないタンパク質(ゼラチンやその加水分解物、あるいは血清アルブミンなど)で膜上の残存反応基に対してブロック操作をした後、抗ラクトフェリン抗体を反応させます。次いで酵素標識二次抗体を用いて膜上のラクトフェリンの検出を行ないます。このように電気泳動後のゲルを膜に転写して免疫化学的な方法で検出することをウエスタンブロット(Western blot)といいます。また、転写のためにはもっぱらセミドライ型の転写装置で膜側を陽極にゲル側を陰極にして通電する方法が用いられます。酵素免疫法による検出感度は、たとえばペルオキシダーゼ・ジアミノベンジジン・過酸化水素を用いる系では1バンド当り500 pg程度ですが、ケミルミネッセンス法 (chemiluminescence)では1バンド当り10 pg以下といわれます。

 

 

免疫組織化学的検出法

ラクトフェリンが生体組織のどの部位に存在しているかを観察するためにも、抗体が用いられます。対象とする組織の切片を作製し、内因性ペルオキシダーゼの影響を取り除くため、0.3% 過酸化水素/メタノールで処理します。次いでヤギ正常血清、ウサギ抗ウシラクトフェリン抗体、ヤギ抗ウサギIgG抗体の順で反応させます。最後にペルオキシダーゼとウサギ抗ペルオキシダーゼ抗体との複合体を作り、これを反応させます。過酸化水素を含むDAB溶液(表4-1を参照)を用いて発色させ、ラクトフェリンが乳腺細胞で発現していることが観察されました。この方法をPAP(peroxidase-antiperoxidase)法といいます(図4-1)。


図4-1.PAP法の原理。抗ラクトフェリン抗体と抗ペルオキシダーゼ抗体はウサギで作製。

補足

a) 膜に転写した後のブロック操作に、5% (w/v)脱脂乳を用いると記述している実験書も多く見られますが、牛乳タンパク質を分析対象とする場合には、バックグランドも呈色する恐れがあるので使ったことはありません。鮭皮由来のコラーゲン(マリンコラーゲン)はブロック剤として良好でした。

b) enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA) およびenzyme immunoassay (EIA)は同じことを意味します。

c) 標識抗体として、酵素の他に放射性標識、蛍光プローブによる標識なども用いられます。

d) 標識酵素としてペルオキシダーゼを用いるとき、クロマトグラフィーなどで防腐剤として用いるアジ化ソーダは阻害剤となります。また、ペルオキシダーゼとしては西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase, HRP)が用いられます。

e) 第2章で触れましたが、牛乳からラクトフェリンを分離してウエスタンブロット法で調べると、ラクトフェリンよりも移動度の大きな(すなわち分子量が小さい)バンドが抗ラクトフェリン抗体と反応して検出されることがあります。このようなフラグメントはラクトフェリンの分解物で、SDSのような強い解離剤が共存して初めて検出できるものと思われます。その他に、SDS-電気泳動のための試料処理の加熱でフラグメント化したものとの考えもあります。さらにラクトフェリン自体がプロテアーゼ活性を持っているとの報告もあります。

参考図書

「生化学実験法3免疫化学的同定法」東京化学同人J.Clausen(佐々木、村地訳)(1973)
「生化学実験講座1タンパク質-I」日本生化学会編、東京化学同人(1976)
「Textbook of Immunology: An Introduction to Immunochemistry and Immunobiology 3rd ed.」 J.T.Barrett, The C.V.Mosby Company, S. Louis (1978)
「生物化学実験法15・免疫学実験入門」学会
出版センター(1981)
「生化学実験法11・エザイムイムノアッセイ」東京化学同人(1989)
「役にたつ免疫実験法第2版」西岡久壽彌・眞崎知生、講談社(1994)
「改訂第4版 タンパク質実験ノート(下)」岡田・三木・宮崎(編)、羊土社(2011)
「免疫生物学(免疫学の正常と病理)」(原書第3版)笹月健彦監修、南江堂(1998)

問題

問1.免疫二重拡散法で抗血清と抗原を反応させた場合、融合 (fuse)、スパー (spur)、交差 (cross) という現象が観察されますが、それぞれどのような意味がありますか(図4-2参照)。


図4-2.Ouchterlony法によって観察される3種の反応形式(A.融合、B.スパーC.交差)。
中央は抗体穴(抗原xとyに対する抗体XとYの両方が入っている)で、上方の2つの穴には抗原(x、x+y、y)が入っています。

問2.ウエスタンブロットでタンパク質成分を転写した膜をブロックする際に、0.1%(v/v)程度の濃度のTween 20などの界面活性剤を含むTris-HCl緩衝液などを溶媒に用います。その理由を推定して下さい。

問3.二次抗体としてF(ab)’2を用いることがあります。これは一体どういうものですか。また、それを用いる利点も述べて下さい。

問4.ウエスタンブロット法で感度の良い検出法として使用される高感度ケミルミネッセンス法(enhanced chemiluminescence, ECL法)は、どのような原理に基づいた検出方法ですか。

問5.組織中に存在する抗原を抗体を用いて検出するには本文で述べたPAP法のほかにアビジン-ビオチン反応を用いて検出する方法(ABC法)もあります。この方法を分かりやすく説明して下さい。また、ビオチンの構造も示して下さい。

問6.血液から抗体(免疫グロブリン)を分離する方法を複数述べてください。また、血液以外に免疫グロブリンを得ることのできる体液はありますか。

問7.酵素免疫法(または酵素抗体法)で用いる酵素としてはalkaline phosphatase, horse-radish peroxidase, b-galactosidaseがその主なものです。各々の酵素に用いる色素、その反応物の色調および用途を調べて、表4-1の空欄を埋めて下さい。なお、色調は黄、紫、赤、緑、オレンジ、青、茶などのいづれか、反応生成物については可溶性(可)、不溶性(不)の別を、用途にはELISAまたはImmuno- Blotting (IB)を記入して下さい。

 

表4-1.抗体標識酵素の種類とその検出系および特性、用途
標識酵素 基質系 色調と
測定波長
反応生成物
可溶?
不溶?
用途
アルカリフォスファターゼ p-nitropheny phosphate(p-NPP)      
5-bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate/ nitro blue tetrazolium (BCIP/NBT)      
5-bromo-4-chloro-3-indoyl phosphate/ nitro blue tetrazolium chloride (BCIP/INBT)      
Naphthol AS-TR phosphate/fast red RC      
Fuchsin      
ペルオキシダーゼ 2,2’-azino-bis(3-ethylbenzthiazoline-6-sulfonic acid) (ABTS)
     
3,3’-diaminobenzidine (DAB)      
o-phenylenediamine (OPD)      
3,3’5,5’-tetramethylbenzidine (TMB)
     
o-dianisidine      
5-aminosalicylic acid (5AS)      
3-amino-9-ethylcarbazole (AEC)      
4-chloro-1-naphthol (4C1N)      
β-ガラクトシダーゼ 5-bromo-4-chloro-3-indolyl β-galactopyranoside (X-gal)      
o-Nitrophenyl- β -D-Galactopyranoside (o-NPG)      

提供:北海道大学名誉教授 島崎 敬一

(2014年7月 改訂)

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