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酪農食品科学特論 - 機能性ミルクタンパク質実験講座 - 改訂版

記事ID : 13143

I.構造編-10.ペプチドの化学合成


ペプチド合成法

あるアミノ酸配列が特定の機能を示すことを証明するには、その配列を有するペプチドを合成し、反応性を調べることが必要です。ペプチドを化学合成するには、カルボキシル基と側鎖の反応性基(官能基、functional group)に保護基を付けたアミノ酸誘導体と、アミノ基と側鎖の官能基を保護したアミノ酸誘導体とを、カルボジイミドなどを用いて縮合させ、その後にアミノ基の保護基を外して次の保護アミノ酸を結合させる方法がとられます。この反応を行うには液相法と固相法がありますが、かなり大量に合成する以外はもっぱら固相法が用いられます。特にアミノ酸配列依存の抗原決定基の同定のために開発された方法があり、セルロース膜あるいはプラスチック製ピンの先端を化学処理し、先端にアミノ基をつけたスペーサーアームが用いられています。後者は96穴のプレートに入れた反応溶液を順次反応させてペプチド鎖を伸長させる方法(マルチピンペプチド合成法)です。この場合、抗体との反応はマイクロプレートを使います。

 

 

Fmoc法によるペプチド合成

活性化セルロース膜を用いる方法(Sigma Genosys社のSPOTs)は以下のようにして行ないます。すなわち、αアミノ基を9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)で、同じくカルボキシル基を活性エステル(Opfp)あるいは(Odhbt)で保護したアミノ酸誘導体溶液を、膜のマークされた位置に1μl程度(Fmocアミノ酸100-200μgに相当)をスポットします。この指定の位置にはスペーサーアームが結合し、その先端に遊離のアミノ基があるためにブロムフェノールブルー(BPB)で青く呈色しています。これらのアミノ酸誘導体は1-methy-2-pyrolidinone (NMF) に溶解して用います。膜上のアミノ基と活性エステルが反応し、アミド結合(amido bond)が形成されます。過剰のアミノ酸誘導体をジメチルホルムアミド(dimethylformamide, DMF)で洗い流した後、未反応アミノ基を無水酢酸/DMFで処理することによりアセチル化し、反応性を失わせます。これをキャッピングといいます。次いで第2級アミンであるピペリジン(piperidine)/DMFによってアミノ基を保護していたFmoc基を外し、アミノ基を遊離させて次の伸長反応を行ないます。なお、反応性を有する側鎖はt-ブチルアルコール系の保護基(Pmc,tBuなど)で保護しておき、全ての合成が終了した時点でジクロロメタン(DCM)/トリイソブチルシラン(triisobutylsilane)と混合したトリフルオロ酢酸(TFA)で保護基を外します。これを脱保護化といいます。

 

 

ペプチドマッピング

膜上の合成部位に反応させるアミノ酸誘導体を順次選択することで、一枚の膜に96種類の異なるアミノ酸配列を有するペプチドを一度に合成することが可能です。このようにして作成したペプチドライブラリーを用いて抗原結合部位の解析、リガンド結合部位の解析などが可能となります。また、このような手法をペプチドマッピングあるいはプロテインマッピングと呼ぶこともあります。なお、ここで述べたペプチドの合成方法は特別な装置は不要で、各種試薬類と有害な溶媒を扱うための換気装置があれば行うことができます。

合成するペプチドのアミノ酸配列を選択するには第6〜8章で述べた結果を基にします。ただしこの合成システムでは最大15残基までの合成とされています。また、ペプチドの全長を合成してもそのどこが抗体結合部位かを判定できないために、例えば8〜10残基を合成します。その場合、1ないし2残基づつずらして合成します(図10-1,2)。また、抗体結合部位(エピトープ)を含むと推定されるアミノ酸残基の前後を短くして合成し、抗体との結合性を示す最小単位を見つけます。さらにいくつかのアミノ酸残基を例えばGlyやAlaに置換して、確認します。

 

 

抗原結合部位のアミノ酸配列の決定

上記の方法で膜の上に合成したペプチドライブラリーを用い、まずモノクローナル抗体と反応させた後、二次抗体として酵素標識した抗マウスIg抗体を反応させます。モノクローナル抗体と反応するペプチドの検出には、標識酵素としてβガラクトシダーゼを用いた場合はX-gal、ペルオキシダーゼの場合は過酸化水素とAECを反応させます(表4-1参照)。呈色した部分のペプチドが反応性を有することを意味します。なおこの時に用いる色素は、酵素によって反応した後に不溶性となる点がELISA法の場合と異なります。これら反応性を示したペプチドのアミノ酸配列で重複している部分がその抗原決定基であることが分ります。

 

 

ペプチドの大量合成

なお、単離した合成ペプチドを得る場合は、ビーズやカラムを用いた固相重合法で合成した後に担体から切り離し、クロマトグラフィーによって精製します。たとえば分取用サイズ(21.5 mm ID × 30 cm)のC18カラムでは一度に20 mg程度のペプチドを精製できます。また、この合成法では20〜30残基までのペプチドの合成が可能とされておりますが、中間体の精製が不可能なため、最終産物の精製が困難な場合があります。一方、前述したように、オリゴペプチドの大量合成に向いているのは液相法で、これは縮合反応を均一溶媒中で行い、縮合反応物を各段階で単離しながらペプチド鎖を合成する方法です。しかし、合成したペプチドの溶解性が低い場合は精製が困難となります。より長いペプチドを得るためには、合成したペプチドをさらに結合させるフラグメント縮合法が用いられます。

図10-1
図10-1.
ウシラクトフェリンCローブに対するモノクローナル抗体反応部位(エピトープ)を推定するためにSPOTsによって作成したペプチドライブラリー1)
太字は抗Cローブモノクローナル抗体と反応したペプチドを示します。ペプチド鎖を伸長させる順は、例えば1番目のペプチド(TAGWNIPM)で説明すると、C末端側であるMを最初に担体と反応させ、次いでP,I・・最後にN末端アミノ酸となるTを反応させます。
図10-2
図10-2.
ウシラクトフェリンNローブに対するモノクローナル抗体反応部位(エピトープ)を推定するためにSPOTsによって作成したペプチドライブラリー2)
これらのペプチドは1残基づつずらして合成(41-50)したり、あるいはペプチド鎖を短くして合成(41,28,18,10,1)しています。結果については図10-3に示しました。

補足

a) Opfpはpentafluorophenylの、OdhbtはN-hydroxy-oxo-dihydro-benzotriazineによるエステル化の略。Fmocは9-fluorenyl methoxycabonylの略。DCMはdichloro methane、TIBSはtriiso butylsilane、TFAはtrifluoroacetic acidの略。

b) アンモニアNH3の水素原子を炭化水素基Rで置換したものがアミン(RNH2)で、第2級アミンとは2個の水素が置換されたもの(R2NH)。

c) ペプチドよりもはるかに大きいタンパク質を合成する方法としては、本文に述べたようにいくつかのフラグメントを合成した後にそれぞれを結合します。しかし現在では、組換えタンパク質の利用も一般的になりました。

d) ペプチド結合(peptide bondまたはpeptide linkage)はアミド結合(amide bond)ともいいます。(図13-1参照)

e) 抗体結合部位(エピトープ)にはアミノ酸配列に依存するもの(sequential)と、立体構造に依存するもの(conformationalあるいは不連続エピトープともいう)があります。

f) エピトープマッピングでペプチドを合成する際、アミノ酸残基を重複させて行う方法をLinear Scan法といいます。不連続エピトープに対応させる方法(Domain Scan法やMatrix Scan法など)も工夫されています。また、Random Peptide Array法なども用いられます。

g) 保護-脱保護(protection-deprotection, blocking-deblocking)

参考図書

1)Shimazaki,K., et al., Advances in Lactoferrin Research, 41-48, edited by Spik,G., et al., Plenum Press (1998)
2)Shimazaki,K., et al., J. Vet. Med. Sci., 58 (12) 1227-1229 (1996)

「蛋白質検出のための次世代分析手法、プロテインチップの基礎」(軒原、三原)蛋白質・核酸・酵素、47巻No.5(4月号) 626-632 (2002)
Nature genetics, vol.32 supplement (2002) The Chipping Forecast II
「タンパク質と核酸の分離精製(基礎と実験)」(化学と生物 実験ライン48),寺田弘編、295- 306、廣川書店(2001)
「ペプチド合成の基礎と実験」泉屋ら、丸善(1985)
「新生化学実験講座1タンパク質-VI 合成および発現」日本生化学会編、東京化学同人(1992)
「新版 抗ペプチド抗体実験プロトコール−遺伝子産物の同定からタンパク質機能解析まで−(細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ)」大海・辻村・稲垣(監修)、秀潤社(2004)

問題

問1.SPOTs法によって50種類のペプチドを合成し、ペプチドライブラリを作成しました(図10-2)。次いでこれらのペプチドについてウシラクトフェリンNローブに対するモノクローナル抗体との反応性を調べました。その結果、1, 2, 9-11, 18-20, 28-32, 39-42の17種類のペプチドが強い反応性を示しました。この抗体が認識するアミノ酸配列を推定して下さい。また、第6章に述べたアミノ酸残基の化学修飾の結果との整合性についても考えて下さい。


図10-3. SPOTs法による検出の一例
1〜50までのスポット上のペプチドは図10-2に示したものです。

問2.ペプチドの化学合成と細胞系におけるタンパク質生合成との違いに、保護基の有無およびペプチド鎖の伸長する方向などに違いがあります。これら比較して説明して下さい。

問3.Fmoc法のほかにペプチドを合成する方法は多数あります。その中の一つであるBoc法について、特に保護基と脱保護の方法の違いについて説明して下さい。

問4.固相法によるペプチド合成では、担体にスペーサーアームが用いられています。また、アフィニティークロマトグラフィーなどに用いるリガンドの固定化にもスペーサーアーム部分があります。なぜ、直接に担体表面から合成したり、あるいはリガンドを結合したりしないのでしょうか。また、どのようなスペーサーアームがありますか。

問5.図10-2において強い反応性を示したペプチド(問1参照)の他に、21, 43, 44のペプチドが弱い反応性を示しました。それらを詳細に検討してみると、鎖長をC末端に伸長させるに伴い、抗体との反応性が強くなったり弱くなったりする現象が観察されています(表10-1)。どのような理由が考えられますか。

 

表10-1.SPOTsによって判定した合成ペプチドのモノクローナル抗体との反応性2)
合成したペプチド 反応性
2 QWRM
11 QWRMK
21 QWRMKK
32 QWRMKKL
44 QWRMKKLG
31 WQWRMKK
43 WQWRMKKL

 

問6.本章で述べたペプチドライブラリーの応用の可能性を考えてください。たとえばDNAチップのようにペプチドチップやプロテインチップを作製した場合、どの様な用途があるでしょうか。この例のほかにも、いろいろな応用を考えてください。

提供:北海道大学名誉教授 島崎 敬一

(2014年7月 改訂)

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