チューブリンの多重修飾:グルタミル化とグリシル化
翻訳後修飾(PTM)は、アミノ酸残基に官能基を付加することでタンパク質の機能特性を改変する、高度に動的で、多くの場合は可逆的な現象です。細胞分化、増殖、運動性、細胞内トラフィッキングにおいて作用している主要な細胞骨格タンパク質である微小管(MT)はPTMの主な基質です。チューブリンのPTMは通常重合後、安定MTであるα/βチューブリンヘテロダイマー選択的に生じます1-3。その様なPTMは一つ以上のグルタミン酸かグリシン残基がそれぞれ付加する、ポリグルタミル化とポリグリシル化の2種です4-5。紡錘体、神経突起、中心小体/基底小体、軸糸を構成するMTはポリグルタミル化を受けます(図1)。逆に、ポリグリシル化は主に鞭毛や繊毛を後肢柄する細胞骨格構造である軸糸のMTで生じます(図2)。鞭毛は、生殖細胞を含めた細胞の表面から突出した特殊器官です。構造的に類似した繊毛は、表面から突出して細胞運動や流動の産生に関与し、外部刺激に応答します。最近、繊毛の異常な構成や機能が、繊毛関連疾患と称される広範囲のヒト遺伝性疾患と関連することが見出されています6。チューブリンのグルタミル化とグリシル化が繊毛の機能において重要な役割を果たすとすれば、多重修飾は無数のヒト疾患と関与することが予想されます。

図1. 原生成物から哺乳類に至る細胞で見出されるポリグルタミル化微小管(MT)。MTは赤色で描写した。

図2. 原生成物から哺乳類に至る細胞の繊毛や鞭毛で見出されるポリグリシル化微小管(MT)。MTは赤色で描写した。
最近まで、グルタミル化とグリシル化酵素の同定はチューブリン多重修飾に関連する謎の一種でした。現在では、その酵素がチューブリンチロシンリガーゼ様(TTLL)ファミリータンパク質の一員であることが判明しています7-11。特定のTTLLタンパク質は多重修飾の開始か伸長の段階に関与し、またチューブリンアイソフォームへの選択性を示します7-11。どちらの多重修飾も、α/βチューブリンのC-末端尾部でグルタミン酸残基のγ-カルボニル基に結合するペプチド側鎖に依存して多様化します。C-末端尾部は構造、運動MT-関連タンパク質(MAP)が結合する部位であり、PTMはその様な結合を調節することでMT機能の多様性をもたらしていることが予想されます。現に、最近のin vitro研究によって、特定MT集団の機能的な特性が調節されていることを意味する、チューブリンのポリグルタミル化が構造および運動MAPのMTへの結合を調節している可能性が示されました13-16。
ポリグルタミル化やポリグリシル化の潜在的機能に関する興味深い報告が幾何か、他にもなされています。ポリグルタミル化はin vivoとin vitroでMT切断を促進することが報告され、PTMがMTの大きさと安定性を調節するシグナルとして作用していることが示唆されました17。ポリグルタミル化はまた、神経突起身長に必要な局所MT切断により神経発達に作用することと17、神経のMTはほとんどが高度にポリグルタミル化されていることが明らかになっています2,4。繊毛や鞭毛の機能におけるグルタミル化やグリシル化の正確な作用は不明ですが、その様な修飾が正常の繊毛機能において必須であることは明らかです。気道上皮における繊毛軸糸MTのポリグルタミル化は、ダイニン活性に関与する正常な繊毛機能に必須です18,20。同様に、ポリグリシル化は繊毛と鞭毛の軸糸の集合と機能において必須です7。実際に、Drosophilaの精巣でTTLL3グリシル化酵素のRNAiノックダウンを行ったところ、オスの生存率減少と不妊に関連する、異常な精子尾部軸糸が生じました8。こうした最近のチューブリンの多重修飾に関する知見があるにもかかわらず、全チューブリン脱グルタミル化酵素や脱グリシル化酵素の同定を含め、多数の事象が未確認のままです21-23。
参考文献
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