樹状細胞(DC: Dendritic cell)は、哺乳類の免疫系で抗原提示細胞として機能し、不活性な未成熟状態、または、活性化された成熟状態のいずれかで存在します。未熟樹状細胞(iDC: Immature DC)は、末梢組織において、炎症部位に局在する外来抗原または病原性抗原をパトロールします(すなわち、抗原サンプリング)。未熟樹状細胞は、食作用、マクロピノサイトーシス、細胞表面受容体を介したエンドサイトーシスなどにより抗原を見つけ、内在化させます1。未熟樹状細胞は、このような活動の間、おそらく抗原サンプリングと補足にそれぞれ最適な速度になるように、運動性の高い状態と低い状態とを行き来します2。未熟樹状細胞は、抗原の補足とプロセシングに伴い成熟し、F-アクチンおよびミオシン II の局在の変化により運動性の高い状態に移行します。分解された抗原は、主要組織適合複合体(MHC)-IIとペプチドの複合体として、成熟樹状細胞表面上に提示されます。活性化された樹状細胞は、リンパ器官(例: リンパ節)において、リンパ管を介してナイーブT細胞に走化性により移動します。補足された抗原がT細胞に提示され(すなわち、免疫シナプス)、T細胞および適応免疫系を活性化します1(図1)。
本稿では、樹状細胞の移動に関わる動的なアクチンの変化と、アクチン結合タンパク質および低分子量 GTPase の Ras スーパーファミリーによる調節に注目します。
ミオシン II
樹状細胞は、in vivo(すなわち、組織間質腔)または in vitro の三次元環境において、F-アクチンに富むリーディングエッジが突出することで移動します。これは、「アメーバ様」運動に関与する、ミオシン II の駆動するアクトミオシンの収縮(インテグリンを介した接着に依存しない)とは無関係です。制限された環境(例: 細胞間の狭い間隙)を通って(in vivo または in vitro で)三次元移動する場合は、この方法に加えて、細胞の後端でのミオシン II が駆動するアクトミオシンの収縮も関与します2-4。ミオシン II は、樹状細胞において、機能と関係する勾配を形成しています5,6。抗原の補足やプロセシングの際には、ミオシン II が未熟樹状細胞の前部で濃縮され、抗原の取り込みや分解を調節し、運動性の低下を引き起こします6。反対に、運動性が高い時は、ミオシン II が細胞の後部に濃縮されます。高速を維持して移動する未熟樹状細胞において、ミオシン II が勾配を形成して機能するためには、IP3受容体1(IP3R1)を介した小胞体からのカルシウム放出が必要です。ミオシン II は、ミオシン II 調節軽鎖(MLC)がカルシウムを介してリン酸化されることで活性化されます5。ミオシン II と同様に、F-アクチンも樹状細胞の運動性と相関する勾配を形成します。未熟樹状細胞と成熟樹状細胞が高速で移動する際には、それぞれの後端に、F-アクチンの濃縮されたプールが存在します。反対に、どちらの状態の樹状細胞であっても、低速で移動する際にはF-アクチンが細胞の前部に濃縮されますが、通常は、未熟樹状細胞のみが低速で移動します7。