モノユビキチン化:タンパク質調節のダイナミックなタグ
ユビキチン化は、ターゲットタンパク質の1つ又はそれ以上のリジンに8kDaのユビキチン(Ub)ペプチドが共有結合により付着する翻訳後修飾(PTM;post-translational modification)です。ターゲットタンパク質は、1つのリジンに対して1つのユビキチンが結合するモノユビキチン化、多数のリジンに1つのユビキチンが結合するマルチユビキチン化、最初にタンパク質のリジンに結合したユビキチンが連続してユビキチン化されてユビキチン鎖となるポリユビキチン化、として修飾を受けます。ユビキチンが7つのリジンを含んでおり、そのいずれに対してもポリユビキチン化が起こりうることが証明されていることから、このPTMによりターゲットタンパク質が多様な修飾を受ける可能性が示唆されています1。また、ユビキチン化は、脱ユビキチン化タンパク質(DUB;deubiquitinating protein)の作用により、迅速な可逆的なプロセスである2ことも知られており、リン酸化のような既によく研究されたPTMよりも更に複雑で、非常に多目的なシグナルリング修飾である可能性が考えられています。ターゲットタンパク質のプロテオソーム分解におけるユビキチン化の重要な役割はよく知られている3一方で、ユビキチンの分解以外の役割は、説明が始まったばかりです。本稿では、モノユビキチン化によって調節される、一般的な非分解のプロセスにフォーカスします(図1)。
分子内自己抑制
リン酸化のようなPTMは、タンパク質の自己抑制の主要なレギュレーターです4。タンパク質のモノユビキチン化が同様の機能を持っているという証拠が明らかになりつつあります。いくつかの報告により、ユビキチン結合ドメイン(UBD;ubiquitin binding domain)を持つタンパク質が高い頻度でモノユビキチン化(mUb)されていることがわかり、これにより、分子内UBD-mUb相互作用による単純な自己抑制機構が提案されています5,6。エンドサイトーシスアダプタータンパク質(Sts1、Sts2、Eps15など)がこのタイプの調節の良い例です6,7。上皮増殖因子受容体(EGFR)のような受容体が、ユビキチン化されて活性化し、内部移行とエンドソームリソソーム経路による分解を引き起こし、これにより伝達シグナルが弱まります。エンドサイトーシスアダプタータンパク質は、ユビキチン化された細胞表面レセプターのUb基とUBDを通して結合し、レセプターをエンドソーム輸送タンパク質と結合させることにより、内部移行及び分解を調節します。アダプタータンパク質が自己抑制される場合は、それによりユビキチン化されたターゲット受容体の認識がブロックされ、伝達経路は伝達を続けることになります。これらのケースでは、自己抑制は受容体媒介シグナル伝達のモジュレーターとして機能しています7(図1)。
UBDには20種類のファミリーがあり、1つまたはそれ以上のUBDを含むタンパク質が150種類以上知られています8。UBDタンパク質は、エンドサイトーシス、DNA修復、転写調節、シグナル伝達などの幅広い細胞プロセスに関与しています6。ユビキチンが媒介する自己抑制が、これらのプロセスの調節において重要な役割を果たしていることを示唆する証拠が発見されています。

図1 ユビキチンが媒介するシグナリング及び輸送の模式図
(A)黒い矢印で示す経路は、ユビキチンによる自動抑制を示します。UBDを含むタンパク質の自己抑制は、受容体のエンドサイトーシスとシグナル伝達を調節します(例:EGFR リサイクリング7)。
(B)赤い矢印で示す経路は、ユビキチンが調節するタンパク質の細胞局在化を示します。この種の調節はH-及びN-Rasで起こっており、ユビキチン化によりRasは細胞膜からエンドソーム膜へ移行します13。
細胞内局在化及び輸送
タンパク質の細胞内における適切な局在化は、その活性を調節する主要な手段であり、十分に裏づけられたPTM事象(ファルネシル化、パルミチル化、リン酸化など)を含む空間的調節の忠実性を確保するために、多くのストラテジーが発展してきました10-12。モノユビキチン化は、他のPTMと共に機能し、ある種のタンパク質(低分子GTPase、細胞骨格タンパク質、スキャフォールドタンパク質など)を特異的な細胞区画に局在化させることができます(図1)。例えば、H-Ras、N-Ras、K-Rasアイソフォームは、モノユビキチン化の基質であることがわかっています(H-Ras及びN-Rasのジユビキチン化は非分解の修飾)13,14。H-Rasのユビキチン化は、ファルネシル化及びパルミチル化と合わせてH-Rasを細胞膜からエンドソーム部へ再配置させる(これに伴いMAPKシグナリングが低下)機能を持っているようです13。興味深いことに、K-Ras(最も癌との関わりが強いRas遺伝子)のモノユビキチン化は、K-Rasと下流のエフェクターとの親和性を調節することで、GTPの受け取りを強化しているようです15。同様に、VEGF応答シグナリングもモノユビキチン化と関わっています。アクチン結合タンパク質フィラミンBのモノユビキチン化フォームは、VEGFに応答して核/細胞質輸送及びHDAC7の細胞質局在化を調節することが示されました16。VEGFの刺激に応答して、フィラミンBが一時的にモノユビキチン化され、HDAC7の核局在化シグナル(NLS;nuclear localization signal)に結合します。これにより、HDAC7の核内への再移行が阻害され、VEGF応答に必要とされる遺伝子に対するHDAC7の転写抑制活性が弱まります16。モノユビキチン化のターゲットとされる、構造的関連のあるタンパク質に、Toll-like及びインターロイキン-1レセプター複合体のスキャフォールドタンパク質TRAF4があります。このタンパク質は、密着接合(Rac1の活性化及び正常の胸部上皮細胞及び癌細胞の移動に必要な部位)への局在化の必要条件としてモノユビキチン化を受けます17。
タンパク質複合体形成の調節
モノユビキチン化は、多くの系において、タンパク質の複合体形成を調節していることが報告されています18,19。例えば、転写伸長のプロセスには、RNAポリメラーゼから物理的なブロックを除去するために、ヌクレオソームの再構成が必要なことが知られています。FACT(facilitates chromatin transcription)複合体は、このプロセスで重要な役割を果たし、ヌクレオソームからヒストンH2A/H2Bダイマーを転置させることによって機能しています。In Vitroにおける再構築システムで、H2Bのモノユビキチン化がFACTが媒介するH2A/H2Bダイマーの転置に必要であることが証明されました18。
モノユビキチン化及び非分解の一般的なユビキチン化シグナルは、多目的な調節モチーフとして、急速に確立されつつあります
参考文献
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19) Bienko, M. et al. 2010. Regulation of translesion synthesis DNA polymerase eta by monoubiquitination. Cell. 37:396-407.
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