

トラフィッキング:ArfとCdc42/Racの結合
Ras関連低分子量Gタンパク質の哺乳類ADP-リボシル化因子(Arf)サブファミリーは、多くのGPCRが共役しているGsaのコレラ毒素を介したADP-リボシル化を促進する機能から命名されました1。Arf GTPaseは分子量とアミノ酸配列の相同性により、クラスI(Arf1とArf3)、クラスII(Arf4とArf5)、クラスIII(Arf6)の3種類に分類されます2。このサブファミリーの中でArf1とArf3が最も研究が行われているGTPaseであり、異なる機能を有するものの、細胞内でのタンパク質や膜小胞の輸送では類似した役割を果たすことが分かっています3。Arf1は歴史上タンパク質を小胞体からゴルジ体へと輸送する被覆小胞の発達と成熟において重要な因子であると考えられてきましたが、近年Arf1がゴルジ体から細胞膜へのタンパク質輸送に関与することが報告されています4。Arf6は細胞膜とエンドサイトーシス区画に局在し、エンドサイトーシス性膜輸送と局所的なアクチン動態に対し重要な機能を果たし、特に後者はRhoファミリーGTPaseとのクロストークを伴います3。
他の低分子Gタンパク質のように、Arf GTPaseはグアニンヌクレオチド交換因子(GEFs)によって、結合しているGDPをGTPに交換することにより活性化されます。Arf小分子Gタンパク質として同定されるGEFもあり、各々がGEF活性を示すのに必須である200アミノ酸残基のSec7ドメインを有します5。GEFは全長が様々ですが、古典的には真菌の抗生物質であるBrefeldin A(BFA)による阻害に感受性があるか抵抗性があるかにより、最近では系統学的な分析により分類されてきました6,7。Arf1は、BFAに対する感受性によらず、GEFによって活性化されることが、一方Arf6はBFA抵抗性のGEFによってのみ活性化されることが知られています3。FA抵抗性GEFであるARNO(a.k.a. cytohesin-2)は、生化学的な分析によりArf1とArf6の両方を活性化します。ARNOはArf1に基質選択性を示しますが、外因性のARNOを発現させた細胞ではArf6を活性化します9-11。加えて、活性化されたGTP結合型Arf6はARNOから細胞膜へ取り込まれ、Arf1の活性化を引き起こします11。

図;GDPとBFAを結合したArf1-Sec7複合体の構造(PDB ID: 1REO)ref. 16.を改変
Arf1とArf6は本来細胞内局在が異なりますが、活性化された際には似た役割を果たします。Arf1とArf6はともに、局所的な膜の環境を改変する脂質修飾酵素を活性化することが知られています3。Arf1によりRhoファミリーGTPaseであるCdc42が、Arf6によりRacが活性化され膜微小環境が改変されると、周辺のアクチン細胞骨格にも変化が生じます12。ゴルジに取り込まれたArf1は、N-WASPの活性化を行う成熟中のゴルジ小胞で、Cdc42を取り込みcoat protein complex I(COPI)を形成し、Arp2/3複合体の活性化やアクチン重合化を起こします13。こうして生じる局所的なアクチン骨格の変化は、ゴルジ小胞の成熟を促進すると考えられています。貪食、細胞接着、遊走、浸潤など多くの過程で、Arf6は細胞膜上でRacを介した局所的なアクチン骨格の改変を起こします。Arf6によるRacの活性化は、Rac GEFであるDock180(Dock180-ELMO複合体)、Kalirin5、Trioの取り込みにより生じます14,15。
近日Cytoskeleton社からArf1とArf6や、その周辺経路を解析するための試薬が発売されます。Arf1とArf6のプルダウン法による活性化試験用の試薬や、Arf1、Arf6、ARNOのGEFドメインの組換え体タンパク質等が発売予定です。RhoファミリーGTPaseに対するArfの活性化の影響を調査する製品として、Cdc42とRac1の活性化試験用試薬としてプルダウン法とG-LISA法を提供します。
参考文献
1. Kahn, R. A., and Gilman, A. G. (1986) J. Biol. Chem. 261, 7906-7911.
2. Tsuchiya M., et al. (1991) J. Biol. Chem. 266, 2772-2777.
3. D’Souza-Schorey, C., and Chavrier, P. (2006) Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7, 347-358.
4. Dong, C., et al. (2010) J. Phamacol. Exp. Ther. 333, 174-183.
5. Chardin, P., et al. (1996) Nature. 384, 481-484.
6. Cox, R., et al. (2004) Mol. Biol. Cell. 15, 1487-1505.
7. Jackson, C. L., and Casanova, J. E. (2000) Trends Cell Biol. 10, 60-67.
8. Macia, E., et al. (2001) J. Biol. Chem. 276, 24925-24930.
9. Frank, S. et al. (1998) J. Biol. Chem. 273, 23-27.
10. Santy, L. C., and Casanova, J. E. (2001) J. Cell Biol. 154, 599-610.
11. Cohen, L. A., et al. (2007) Mol. Biol. Cell. 18, 2244-2253.
12. Myers, K. R., and Casanova, J. E. (2008) Trends Cell Biol. 18, 184-192.
13. Heuvingh, J., et al. (2007) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 104, 16928-16933.
14. Santy, L. C., et al. (2005) Curr. Biol. 15, 1749-1754.
15. Koo, T. H., et al. (2007) BMC Cell Biol. 8, 29.
16. Mossessova, E., and Corpina, R. A. (2003) Mol Cell. 12, 1403-1411.
タンパク質
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
---|---|---|---|---|
Cdc42 Protein: constituitively active, Human![]() |
CYT | C6101-A | 1*10 UG |
¥137,000 |
Cdc42-GST Protein: dominant negative, Human![]() |
CYT | C17G01-A | 1*25 UG |
¥137,000 |
Cdc42-GST Protein: Wild type, Human![]() |
CYT | CDG01-C | 8*25 UG |
販売終了 |
Cdc42-His Protein: Wild type, Human![]() |
CYT | CD01-A | 1*100 UG |
¥137,000 |
Cdc42-His Protein: Wild type, Human![]() |
CYT | CD01-C | 3*100 UG |
¥247,000 |
Cdc42-His Protein: Wild type![]() |
CYT | CD01-XL | 1*1 MG |
お問い合わせ |
Rac1 Protein: constitutively active, Human![]() |
CYT | R6101-A | 1*10 UG |
¥137,000 |
Rac1 Protein: dominant negative, Human![]() |
CYT | R17G01-A | 1*25 UG |
¥137,000 |
Rac1 GST Protein: wild type![]() |
CYT | RCG01-C | 8*25 UG |
¥218,000 |
Rac1 His Protein: wild type, Human![]() |
CYT | RC01-A | 1*100 UG |
¥137,000 |
Rac1 His Protein: wild type, Human![]() |
CYT | RC01-C | 3*100 UG |
¥250,000 |
Rac1 His Protein: wild type, Human![]() |
CYT | RC01-XL | 1*1 MG |
お問い合わせ |
Rac2, His tagged![]() |
CYT | RC02-A | 1*100 UG |
¥137,000 |
活性化アッセイ
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
---|---|---|---|---|
Rac1,2,3 G-LISA(R) Activation Assay Kit![]() |
CYT | BK125 | 96 ASSAY |
¥302,000 |
Rac1 G-LISA(R) Activation Assay Kit![]() |
CYT | BK128 | 1 KIT [96 assays] |
¥302,000 |
Rac1 Pulldown Activation Assay Kit![]() |
CYT | BK035 | 1 KIT [50 assays] |
¥269,000 |
Cdc42 G-LISA(R) Activation Assay Kit![]() |
CYT | BK127 | 96 ASSAY |
¥302,000 |
Cdc42 Pulldown Activation Assay Kit![]() |
CYT | BK034 | 1 KIT [50 assays] |
¥269,000 |
低分子Gタンパク質抗体
ファロイジン
品名 | メーカー | 品番 | 包装 | 希望販売価格 |
---|---|---|---|---|
Acti-stainTM 488 phalloidin, Plant![]() |
CYT | PHDG1-A | 1*500 UL [300 slides] |
¥74,000 |
Phalloidin; Fluorescent Derivatives (Acti-StainTM 535), Rhodamine Isothiocyanate![]() |
CYT | PHDR1 | 1*500 UL [300 slides] |
¥74,000 |
Acti-stainTM 555 phalloidin, Mushroom![]() |
CYT | PHDH1-A | 1*500 UL [300 slides] |
¥74,000 |
Acti-stainTM 670 phalloidin, Plant![]() |
CYT | PHDN1-A | 1*500 UL [300 slides] |
¥74,000 |
■ CYTOSKELETON NEWS バックナンバー
- 2020年10月号 紡錘体 - 可視化に向けた新規ツール
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- 2020年2月号 タウ(Tau)の将来性をMapping
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- 2019年9月号 細胞運動性を制御するために相互作用する膜張力とアクチン細胞骨格
- 2019年8月号 Rac1B、がん、およびRac1
- 2019年7月号 Rhoファミリー GTPases、神経可塑性、およびうつ状態
- 2019年6月号 アクチンメチオニン酸化: 動的制御の次の段階
- 2019年5月号 ミクログリアと神経変性疾患
- 2019年2月号 生細胞画像化に対するCNS疾患や障害
2018年
- 2018年12月号 アクチン細胞骨格とメカノトランスダクション(機械的シグナル伝達)
- 2018年11月号 軸索再生と細胞骨格
- 2018年10月号 ニューロンにおける微小管と極性
- 2018年8月号 Rab GTPase と 神経変性
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- 2018年6月号 なぜ K-Ras は発がん特異性を示すのか?
- 2018年5月号 治療標的としてのユビキチンプロテアソームシステム:チューブリンは関与するか?
- 2018年4月号 RhoファミリーGEFと樹状突起スパインの構造的可塑性
- 2018年3月号 βカテニンとTFC/LEF-1の翻訳後修飾による標準的なWntシグナル制御
- 2018年2月号 がん抑制遺伝子p53の翻訳後修飾による機能の調整
- 2018年1月号 自閉スペクトラム症におけるGEF Trioの役割
2017年
- 2017年12月号 プロフィリン: アクチン結合タンパク質の多機能な役割
- 2017年11月号 ミトコンドリアにおけるアセチル化:新たな考え方と治療への応用の可能性
- 2017年9月号 翻訳後修飾のアセチル化による微小管の安定化
- 2017年8月号 神経軸索におけるアクチンリングを基盤とした周期的膜骨格(PMS)
- 2017年7月号 E3ユビキチンリガーゼMdm2によるがん抑制遺伝子p53の翻訳後制御
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- 2017年5月号 Arf6 GEF と癌細胞の浸潤・転移
- 2017年4月号 PTEN(Phosphatase and Tensin Homolog)による翻訳後制御
- 2017年3月号 Tau の翻訳後修飾: アルツハイマー病の治療標的
- 2017年2月号 樹状細胞の移動におけるアクチン結合タンパク質とF-アクチン
2016年
- 2016年11月/12月号 GEF を介した GTPase シグナル伝達の低分子阻害剤
- 2016年9月号 FtsZ タンパク質: 抗菌薬の新規ターゲット
- 2016年7月号 翻訳後修飾(PTM)は心臓病において細胞骨格タンパク質を調節する
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- 2016年4月号 Rac1と糖尿病: ポジティブな役割とネガティブな役割
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- 2016年1月/2月号 ビメンチン中間径フィラメント: リン酸化による調節
2015年
- 2015年8月号 タンパク質調節に不可欠な翻訳後修飾
- 2015年7月号 アクチン細胞骨格のライブセルイメージング
- 2015年6月号 有糸分裂に関わるタンパク質のSUMO化: 局在と機能
- 2015年5月号 Ras 癌の治療: 5つの有望なターゲット
- 2015年4月号 Ras 依存性の癌で注目される YAP1
- 2015年3月号 増刊号 統合失調症において遺伝子変異により誘導されるアクチン依存のシナプスの変化
- 2015年3月号 Ral GTPase を調節する翻訳後修飾
- 2015年1月/2月号 RhoA のリン酸化はシグナル伝達を調節する
- 2015年1月号 増刊号 微小管を不安定化する suprafenacine: 新規抗癌剤のリード化合物としての可能性
2014年
- 2014年12月号 増刊号 RhoA は心筋細胞におけるアクチン細胞骨格の再構成とグルコース取り込みを仲介する
- 2014年11月号 増刊号 樹状突起の形態形成: ドーパミンD1受容体 および Rho ファミリー GTPase による制御
- 2014年11月/12月号 GTPase 活性化アッセイ: アイソフォームの検出
- 2014年10月号 アルギニンの正電荷を消失させるシトルリン化
- 2014年9月号 キネシンサブドメインの探索
- 2014年9月号 増刊号 アクチン結合タンパク質コフィリンの S-ニトロシル化: 細胞移動に対する影響
- 2014年8月号 増刊号 原発性硬化性胆管炎における N-Ras 発現および活性
- 2014年8月号 SUMO化: 細胞骨格タンパク質を標的とした翻訳後修飾
- 2014年7月号 Sos/K-Ras 結合を介して Ras シグナル伝達を制御する新しい低分子阻害剤
- 2014年6月号 増刊号 頭頸部扁平上皮癌における microRNA-138 による RhoC のダウンレギュレーション
- 2014年6月号 Rho GTPase と活性酸素種: クロストークとフィードバック
- 2014年5月号 ミオシンのアセチル化はサルコメアの構造と機能を調節する
- 2014年4月号 リジンのアセチル化 - 多様な細胞プロセスの制御因子
- 2014年3月号 インテグリンを介したβ-アクチンの酸化還元制御: PDIの出現
- 2014年1/2月号 ダイニン: 一つのモーターが関わる複数の神経変性疾患
2013年
- 2013年11/12月号 ダイニン:チームとして強力に作用するモータータンパク質
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- 2013年9月号 モノユビキチン化:タンパク質調節のダイナミックなタグ
- 2013年8月号 Ras及びRhoのプレニル化による翻訳後修飾:癌創薬における役割
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- 2013年3月号 蛍光フィブロネクチンタンパク質を用いた特発性肺線維症の創薬
- 2013年1/2月号 樹状突起棘:発生におけるArf6の役割
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- 2012年10月号 Rhoファミリーパスウェイのユビキチン化と制御
- 2012年9月号 神経変性におけるRac1 GTPaseの機能
- 2012年8月号 上皮間葉転換(EMT)とRhoファミリー低分子量G-タンパク質の関与
- 2012年7月号 チューブリンの多重修飾:グルタミル化とグリシル化
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- 2012年5月号 アクチン酸化サイクルの機能
- 2012年4月号 トラフィッキング:ArfとCdc42/Racの結合
- 2012年3月号 G-LISAを用いた心臓研究: 糖尿病性心筋症におけるRho経路に関する研究
- 2012年1月/2月号 FtsZ: 新たな抗生剤の標的となるチュ−ブリンホモログ
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