アクチンは、神経細胞極性、細胞形態、神経突起の発生(例えば、葉状仮足および糸状仮足の伸長、ならびに樹状突起スパインをもつ成長円錐)、細胞内輸送、およびシナプス可塑性(樹状突起棘数や形態の動的変化 )の制御に関与することから、神経細胞骨格の不可欠な部分です1-3。アクチンが成長円錐や樹状突起棘に存在することが何十年にもわたり研究者に注目されてきた一方で、神経軸索にも存在することで "神経アクチンファミリーの異端児"として取り扱われてきました4。なぜなら、軸索におけるアクチンの構造および役割の正確な詳細がよく分かっていないからです。近年、ナノスケール顕微鏡による周期的膜骨格(PMS)の発見によって、軸索アクチンの構造が解き明かされるという著しい進展がありました(図1)5。本稿では、軸索におけるPMSの発見、構造、および機能に関して論じていきます。
PMSの発見と構造
2013年に発見されたPMSは、皮質アクチンの一種で、アクチン皮質の主要な構成成分です。PMSは、F-アクチンとアクチン結合タンパク質の混合物で、エンドサイトーシス/エキソサイトーシスおよび細胞運動性といった真核生物細胞の細胞膜とそれに関するプロセスを担っています4, 5。初節を含めた神経軸索では6、短鎖アクチンフィラメントによって構成されるPMSが等間隔の輪に束ねられ、180〜190 nm の周期性で軸索の円周に巻かれて構成されています5-9(図1)。短鎖フィラメントはアデューシンキャップにより安定化されており、アクチンリングと軸索の直径を調節するとともに、リング内のアクチンフィラメント成長を調節しています6, 10。アクチンリングの近隣はスペクトリン四量体(軸索本体ではβII、軸索初節ではβIV)による架橋反応で守られています6,8,11。
固定化された哺乳動物神経と脳組織切片に対して、STORM顕微鏡法(stochastic optical reconstruction microscopy)によって、PMSが初めて報告されました5。これらの発見はそのすぐ後、他の研究者により、哺乳動物/非哺乳動物の固定化された神経について、STORM顕微鏡、および SIM顕微鏡法(structured illumination microscopy)を用いて確認されました5,6,8,11,12。最も重要なことに、F-アクチン生細胞イメージングプローブ (SiR-Actin)7,10,13(図1: シリコンローダミン アクチン)を用いて、または蛍光標識済みβIIスペクトリンの外因性発現を行って、生きた哺乳動物の神経を確認したことにより、確証が得られました8。
哺乳動物の培養神経では、発生から最初の数日間で、PMSは神経発達に伴い軸索にそって遠位に移動する前に、細胞体に隣接している軸索内に構築されます5, 7, 8, 11。ショウジョウバエでの一次ニューロンでは、播種から数時間以内でPMS発生が始まります11。特に、ショウジョウバエ神経のPMSについて、非常に幼いもの(数時間から2日齢)と成熟したもの(3日齢以上)との違いが報告されています。例えば、幼い時期のPMSでは軸索成長はアクチン重合(重合核形成因子など)に依存しますが、成熟したものはこの限りではありません11 。重合核形成、集合、およびアクチンリングの維持に関与するアクチン結合タンパク質はあまりよく知られていません。ショウジョウバエ神経では、2つの核形成因子であるArp2/3とホルミンDAAM (disheveled-associated activator of morphogenesis)がPMS形成をし、おそらくPMSを構成する複数の短鎖フィラメントが重合核となっていると思われます11。
図1. STED顕微鏡と100 nM SiR-Actinを用いた神経における生細胞画像
上図左:ラットの海馬神経細胞、8 DIV
上図右:ラットの海馬神経細胞、17 DIV
下図:ラットの小脳顆粒細胞、21 DIV
(マックス・プランク生物物理化学研究所(ゲッチンゲン), Elisa D'Este氏提供)
PMSの機能
神経軸索は、神経が細胞体と軸索終末間を双方向に積荷を伝達し移送する手段です。軸索欠損は永久的なもので、通常の老化・様々な神経変性疾患や病気によって軸索が損なわれることから、正常な脳機能には健康な軸索を維持することが必要です14。PMSは軸索の細胞膜の骨組みとして機能するとの仮説が立てられています。PMSは、アンキリンやナトリウムチャネルのような、それぞれ軸索構造や活動電位発生に重要な分子を、軸索において周期性分布をもつように配置したり5,8、特に軸索末梢部分に沿ってモーター結合積荷小胞のドッキングを補助したり4,9,15、軸索に沿って膜貫通型タンパク質を形成したりしています11, 15-18 。
実際の機能データはわずかですが、固定化し、SiR-Actinで染色したショウジョウバエ一次ニューロンに関する最近の報告では、軸索の完全性を維持する上で、PMSは軸索微小管(MT)の重合を促進することから重要であると結論づけられています11。軸索微小管は、軸索における主要な細胞骨格成分です。サイトカラシンDに誘導させてPMSを分解すると、微小管束の切断、微小管重合の低減、軸索数の減少が見られます11。これ以外の微小管に関連するPMSの機能的役割としては、微小管を束ねることが挙げられます19-21。PMSは、微小管のマイナス末端へのアンカーとして機能し22, 23 、ダイニンが微小管上をすべるのを助けたり、移送を補助したりしています24。
まとめ
近年、神経軸索の膜下格子を構成するアクチンリングが発見され、軸索アクチンの役割をより深く理解できるすばらしい機会がありました。さらに、末梢神経系のランビエ絞輪や、少なくともいくつかの樹状突起や樹状突起スパインにおいてもアクチンリングの記述がなされています7, 25。アクチンリングと似ているものに、「アクチンの波」と「アクチンの通り道」というアクチン構造がありますが、あまり注目されてきませんでした4。超解像顕微鏡(STORM, STED, SIMなど)やSiR-Actinといった生細胞画像プローブなしでは、PMSの存在や組成は未知のままだったでしょう。アクチンや他の細胞骨格構造の組成、集合、維持、および機能をさらに明らかにできるよう、Cytoskeleton社では、F-アクチン、微小管、DNA、リソソーム用の生細胞イメージングプローブ (SiRシリーズ、SiR700シリーズ)や、固定化細胞用Acti-stainファロイジンをご提供しています。