哺乳動物細胞には、小分子のユビキチン様修飾因子(SUMO)ファミリーとして4種のアイソフォーム(SUMO1、SUMO2、SUMO3、およびSUMO4)が存在します。SUMO2とSUMO3はほぼ同一であり、わずか3つのアミノ酸残基が異なるだけです。SUMO1はSUMO2/3と48%の同一性をもちます1。SUMO4はSUMO2/3とおよそ85%同一ですが、SUMO4が基質と結合するかどうかは不明です2。ユビキチン化と同様に、SUMO化において標的基質にSUMOを共有結合させるためには3種の酵素システム(E1、E2、およびE3)が必要です。SUMOはまず、SUMO E1活性化ヘテロ二量体酵素SAE1/SAE2によりATP依存性反応においてアデニル化され活性化されます。活性化されたSUMOは、その後SUMO E2結合酵素UBC9に転移され、最後にSUMO E3リガーゼ(例:PIASファミリーメンバー、Ran結合タンパク質2)により標的タンパク質に結合します。共有結合したSUMOは、脱SUMO化と呼ばれる過程によりセントリン特異的プロテアーゼ(SENPs)によって除去されることがあります3 (図. 1)。SUMO化は、標的タンパク質の活性度、細胞内局在、安定性、および機能を制御する重要な翻訳後修飾(PTM)であるため、ほぼ全ての主要な細胞経路を調節するといえます4。したがって、多くの疾患がSUMO化の調節不全に関連していても驚くことではないでしょう。本ニュースレターでは、がんにおけるSUMO化/脱SUMO化の役割を議論します。
図.1 SUMO化と脱SUMO化のプロセスの概要
がん発生におけるSUMO化
がんは、細胞が異常に生育するときに発生します。細胞周期進行に関与する多くの制御タンパク質はPTMsにより堅固に制御されており、SUMO化は細胞周期進行や、がん制御における主要なプレーヤーのひとつとして認識されています5。SUMO結合経路の構成要素を過剰発現すると、腫瘍増殖が後押しされます。例えば、腫瘍性タンパク質であるMycはSUMO活性化酵素E1(SAE1)の転写を活性化します6。SAE1とそのパートナーであるSAE2はMyc駆動性の腫瘍発生を補助する上で重要な役割を担います。SAE2の欠乏によりSUMO1またはSUMO2/3修飾タンパク質レベルが大きく低減し、これによりMyc依存性乳がん増殖やクローン形成能が減少します7。また、SUMO E2結合酵素であるUBC9はがん発生の初期段階で重要であり、肺がん、原発性結腸がん、および、前立腺がんにおいて高発現するとの報告もあります8。興味深いことに、UBC9レベルは、対応する正常組織や初代腫瘍に比べて、転移性乳がん、肺がん、および前立腺がんにおいて下方制御されています。ウイルス(HPV)介在型の頭部と頸部の腫瘍発生では、UBC9レベルは自己貪色過程を介して上方制御されています8。アストロサイトの脳腫瘍では、UBC9、SUMO1-、およびSUMO2/3-抱合型タンパク質が腫瘍増殖を促進します。神経膠芽腫細胞においてSUMO1-3結合を遮断すると、DNA2本鎖損傷やG2/M細胞周期停止によりDNA合成、細胞増殖、およびクローン形成能が損なわれます10。さらに、SUMO E3リガーゼであるPIAS1は腫瘍発生に関与します11。PIAS1は前立腺がんにおいて増幅され、p21を抑制することで細胞増殖を促進します12。PIAS1はMyc駆動型B細胞リンパ腫において高発現します。また、SUMO化依存性でMycを安定化します。PIAS1は、MycのS62におけるリン酸化を促進し、これによりMycとその転写活性の安定化と上方制御が誘導されます13。
がん発達における脱SUMO化
SENPによる脱SUMO化はSUMOホメオスタシスを細胞内で維持しています。しかしながら、脱SUMO化における異常な活性も腫瘍形成を促進します14。 SENP1の過剰発現は、前立腺がんの発症に関連しています。前立腺がん標本からの分析は、SENP1発現が前立腺がんの攻撃性および再発と直接相関することも明らかにしています15。 SENP1は、アンドロゲンまたはインターロイキン-6で処置した前立腺がん細胞において上方制御されます。 SENP1の上方制御は、アンドロゲン依存性転写およびc-Jun依存性転写を増強します。両方とも前立腺がんの発達にとって重要です16。興味深いことに、siRNAによるSENP2の遮断は、β-カテニンの安定性の増加を介して肝細胞がんの増殖を促進します17。おそらくp53の転写活性およびp2118の発現を阻害することにより、SENP3の上方制御は上皮性卵巣がんの進行を促進します。SENP3の過剰発現は口腔扁平上皮癌の分化と関連しています19。SENP5の上方制御は、骨肉腫細胞の増殖を促進し20、肝細胞がんの腫瘍形成を促進しています21。 SENP6は、肝細胞がん組織において過剰発現されます。shRNAによるSENP6のサイレンシングは、肝細胞がん細胞株における増殖阻害および放射線増感を誘導します22。乳房上皮において、長いSENP7スプライス変異体の過剰発現は、乳房上皮間葉移行を促進します23。
がんにおけるSUMO化経路の標的
SUMO化経路は、がんの治療標的候補となりました。小分子STEがSUMO E1活性化酵素の活性を阻害し、これによりSUMO化が損なわれ、肺がん細胞増殖が阻害されます。Myc駆動型がんは、その生存をSUMO E1活性に高度に依存しているため、この点は特に重要となります24。また、ギンコール酸がSUMO E1に直接結合し、SUMO化を阻害するとの報告もあります。ギンコール酸処置によりNOTCH1駆動型の乳房上皮細胞の増殖を阻害することから、NOTCH1駆動型乳がんに対するギンコール酸治療効果の可能性が示唆されました25。急性骨髄性白血病治療に使用されるいくつかの化学療法薬は活性酸素種の形成を誘導するため、SUMO E1活性化酵素とSUMO E2結合酵素間の相互作用が阻害され、その後、腫瘍増殖の低減が生じます26。亜ヒ酸は伝統中国医学で使用される古来の薬物ですが、これがSUMO化と、引き続いて生ずるPMLや急性前骨髄球性白血球の発生を駆動する融合型腫瘍性タンパク質であるPML-RARaの分解を促進することが示されています27。
まとめ
アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、およびSUMO化といったPTMsは、タンパク質構造、細胞内局在、および全ての主要な細胞経路における活性を制御します。がん、心不全、神経変性、および脳虚血/脳卒中をはじめとする様々なヒト疾患がSUMO化の調節不全と関連していることが多くの研究で示されています3。しかしながら、どのようにSUMO化/脱SUMO化と病態に寄与する他のPTMsとが相互作用(例えばクロストーク)するのかに関しては、未だに研究されていない領域があります。Cytoskeleton社では、研究者の方々がPTMs修飾タンパク質の内在性レベルを同定したり評価したりする際に役立ついくつかのSignal-SeekerTMP™ Detection Kitsをご提供しています。