

キネシンサブドメインの探索
近年、分子モーター研究は新しい局面に移りつつあります。巨大分子へのアプローチが中心だった5年以上前とは対照的に1、最近の研究は、キネシンが分子内ダイナミクスによってどのように調節されているか、そのメカニズムの解明にフォーカスされています。主に2つの技術的なアプローチによって、これらの動的なメカニズムの測定が可能になりました。1つは、1分子のキネシンを観察できる全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡で、もう1つは、1つのモーターから別のモーターへのサブドメインスワッピングです。
興味深いことに、キネシンモータータンパク質は、他のキネシンからの小さなアミノ酸ストレッチの置換を、比較的柔軟に受け入れます。キネシンは、通常2つのドメインから構成されています。1つは触媒部位で、もう1つは ネックリンカー(NL)、コイルドコイル(CC)、カーゴ結合部位を含む非触媒性の領域です。NL サブドメインは、長さが 14-22アミノ酸で(図1参照)、Hoeprich ら2 によって、このサブドメインはキネシン1(K-1)からキネシン2(K-2)にスワップが可能で、重要な機能の違いをもスワップして新しい相手先に移行する、と報告されています。Hoeprich ら2 は、1分子のキネシンを追跡することで、MAPs(例: tau)が微小管の表面を覆っている場合、NL サブドメインの長さが、微小管(MT)上を移動する能力を調節していることを示しました、。これらの障害物を横断する際に、K-2 はほとんど失敗しませんが、K-1 はぎこちなく、MAPs で覆われていない MT と比較してよりゆっくりと進みます。モーターが MT から解離する前に移動した距離(processivity または run length)を測定すると、K-2 は、MT が Tau アイソフォーム(3RS または 4RL)で覆われている/いないに関わらず、平均して同じ距離を移動します。一方、K-1 は、Tau で覆われた MT 上をより短い距離しか移動しません。これらのモーター間で NL がスワップされると、特徴的な processivity も一緒にスワップされます。

図1 キネシンの模式図
ループL5、ネック、モータードメインに関係するカバーネック、コイルドコイル、カーゴの位置を示す。
互いに近接しており、化学エネルギーを運動エネルギーに変換する際に相互作用することに注目。
Düselder ら3 によって同様の解析が行われ、K-5(Eg5 または KIF11 としても知られている)の processivity の決定に NL の長さが重要であることが報告されました。本研究では、NL が比較的長い(例: 13-22 アミノ酸)場合には、processivity は変わりませんが、ストレッチがより短い(11 アミノ酸)場合には、processivity が低下することが示されています。対照的に、速度および力発生は、NL の長さの変化にそれほど影響されません。しかし、Shastry と Hancock は、processivity に最適なのは 14 アミノ酸である、という異なる結果を報告しています4,5。Shastry と Hancock は、Düselder らと結果が一致しない理由は、使用したバッファーの差異による可能性があり、バッファーは親和性や run length に大きく影響する、と言及しています。興味深いことに、NL 領域の配列と長さはモーターごとに非常に特異的であり、各モーターの機能に最適化されていると考えられます。表1から、NL の長さは 14-22 アミノ酸で、プロリンを含む場合があることがわかります。プロリンは、構造にねじれを形成すると推測され、コイルドコイルをモータードメインの後ろに折り曲げるか、モーターの移動方向を変えることで(例: ホッピングまたは円周方向への移動)、モーター活性の自己阻害を引き起こす可能性があります。
モーター | キネシンファミリー | NL の前の ID 配列 | NL | NL の後の ID 配列 | NLのアミノ酸長 | processivity (μm) | 参考文献 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
HsKIF5C (KHC) | K-1 | LDFGRRA | KTVKNVVCVNEELT----- | AEEWKRR | 14 | 1.5 | 4 |
HsKIF3A | K-2 | LRYANRA | KNIKNKARINEDPKDAL | LRQFQKE | 17 | 1 | 4 |
HsKIF1A | K-3 | LRYADRT | KQIRCNAVINEDPNNKL I | IRELKDE | 17 | 0.5*/9.2** | 6 |
HsKIF7 | K-4 | LNYASRA | QNIRNRATVNWRPE--- | AERPPEE | 14 | 0/nd | 本記事 |
HsKIF11(Eg5, KSP) | K-5 | LEYAHRA | KNILNKPEVNQKLTKKAL | IKEYTEE | 18 | 0.3 | 8 |
*モノマー、**二量体、NL = ネックリンカー
Soppina ら6 によって K-3 ファミリーメンバー(例: KIF1A、KIF13A、KIF131B、KIF16B)の解析が行われ、コイルドコイル1サブドメイン(CC1)を NL 上に折り曲げると、processivity が非常に低下し、二量体化が阻害されることが示されました。K-3 ファミリーのメンバーは、一般的に processivity が低いとされていますが、細胞の末端部分に小胞を輸送する小胞モーターとしての機能に反するように思われます。Soppina ら6 は、NL-CC1 サブドメインとコイルドコイルを交換すると、processivity の高い二量体構造をとることから、モーターは、実際には in vivo でカーゴに結合して二量体化が起こると、processivity が高くなることを証明しました7。
また、Hesse ら8 によって、キネシンサブドメインの複雑な相互作用が報告されています。K-1 は、3つのサブドメイン[カバー、NL、L13(L5 アナログ)9,10 (図1)]を含むと考えられています。これらのサブドメインは、Pi 放出によって生じる力を NL に協調させることで、モータードメインの運動に寄与します。Hesse ら8 は、K-1 から K-5 ファミリーのメンバー間でこれらの3つのサブドメインをスワップすることで、「K-5 メンバーのドメインが K-1 に移行されると、K-5 メンバーに特徴的な低い弾力性を示す」といった、各モーター特異的な機能に関係する特徴をいくつか発見しています。
これらの研究から、キネシンサブドメインには互換性があり、本来のモーターの機能に関する情報を運んでいる、という新しい段階の知見が得られます。これらのサブドメインは、短いアミノ酸のストレッチで、モーター特異的な機能に大きく影響していると考えられます。また、これらの部位は、創薬および分子生物学のツールに関する潜在的な標的となります。
参考文献
1. Case R.B. et al. 2000. Role of the kinesin neck linker and catalytic core in microtubule-based motility. Curr. Biol.10, 157-160.
2. Hoeprich G.J. et al. 2014. Kinesin’s neck-linker determines its ability to navigate obstacles on the microtubule surface. Biophys. J. 106, 1691-1700.
3. Düselder A. et al. 2012. Neck-linker length dependence of processive kinesin-5 motility. J. Mol. Biol. 423, 159-168.
4. Shastry S. and Hancock W.O. 2010. Neck linker length determines the degree of processivity in kinesin-1 and kinesin-2 motors. Curr. Biol. 20, 939-943.
5. Shastry S. and Hancock W.O. 2011. Interhead tension determines processivity across diverse N-terminal kinesins.Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 108, 16253-16258.
6. Soppina V. et al. 2014. Dimerization of mammalian kinesin-3 motors results in superprocessive motion. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111, 5562-5567.
7. Tomishige M. et al. 2002. Conversion of UNC104/KIF1A kinesin into a processive motor after dimerization.Science. 297, 2263-2276.
8. Hesse W.R. et al. 2013. Modular aspects of kinesin force generation machinery. Biophys. J. 104, 1969-1978.
9. Khalil A.D. et al. 2008. Kinesin’s cover neck bundle folds forward to generate force. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.105, 19247-19252.
10. Hwang W. et al. 2008. Force generation in kinesin hinges on cover-neck bundle formation. Structure. 16, 62-71.
モータータンパク質
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