
近年、J. Li らは、前頭前野(PFC)のニューロンの樹状突起において、コカインによって誘導される形態変化の分子メカニズムについて、その研究成果を報告しました。本研究では、特に、RhoA および Rac1(Rho ファミリー GTPase)が、ドーパミン(DA)D1受容体の活性化によって誘導される樹状突起の形態形成において担う役割について検討されています。コカイン使用時の状態を模倣するために、DA処理を繰り返し行い、D1受容体を刺激しました。コカインによって誘導される行動の変化は、コカインの影響で誘導されるニューロンの樹状突起形態の構造変化に依存します。このような構造変化には、アクチンの再構成が必要となります。そこで、RhoA と Rac1 は、どちらもアクチン細胞骨格および樹状突起の再構成に関わる制御因子であることから、Rho ファミリー GTPase が、どのようにDA D1受容体の活性化に関与しているか検討しました。本研究により、初代培養 PFC ニューロンを使用して、DAのDA D1受容体への刺激により、Rac1 活性が向上し、RhoA 活性が低下することが見出されました。また、DAが介する RhoA 活性の低下には、Rac1 活性が必要となることから、Rac1 と RhoA の間にクロストークが存在することが示唆されます。これらの結果から、DAがD1受容体を介して、PFCの樹状突起形成を正に制御する Rac1 活性を向上させる一方で、形態形成を負に制御する RhoA 活性を同時に低下させる、という結論が示されました。
本研究では、ニューロンライセート中の Rho ファミリー GTPase の活性レベルを定量化するために、Cytoskeleton(サイトスケルトン/CYT)社の RhoA/Rac1 G-LISA 活性化アッセイキット(品番: BK121/BK126)が使用されています。