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研究用

SUMO化: 細胞骨格タンパク質の機能を調節するレギュレーター CYTOSKELETON NEWS 2016年3月号

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CYTOSKELETON NEWS 2016年3月号 SUMO化: 細胞骨格タンパク質の機能を調節するレギュレーター

SUMO化: 細胞骨格タンパク質の機能を調節するレギュレーター

はじめに

細胞骨格は繊維状の構造をもち、アクチンフィラメント・中間径フィラメント・微小管の3種類のポリマーのネットワークから構成されます。これらの相互作用は、細胞の形態維持や運動性、物質の輸送に関わり、細胞の恒常性の維持に必須です。また、細胞骨格ネットワークと関連タンパク質の非常に動的な性質により、外部および内部の刺激に対する、柔軟かつ迅速な細胞応答が可能になります。刺激に応答した細胞骨格タンパク質の機能や局在の変化は、緊密かつ迅速に調節されますが、その主な方法の一つに、高度な微調整を可能にする翻訳後修飾(PTM: post-translational modification)があります1-5。近年、タンパク質のリジン(K)残基のSUMO(Small Ubiquitin-related Modifier)化修飾が、様々な細胞プロセスの重要な調節機構として注目されています4,5。SUMO化は、ユビキチン化とは異なり、プロテアソームによる分解にはつながらず、細胞内局在、転写調節、クロマチン再構成、ストレス応答、有糸分裂の制御において重要な役割を担っています6。本稿では、代表的な細胞骨格タンパク質とその作用について解説します。

アクチンフィラメントとアクチン結合タンパク質

アクチンは、細胞の細胞質と核の両方で、最も豊富に存在するタンパク質の一つです。細胞質アクチンのSUMO化はまだ報告されていませんが、核内のβ-アクチンは SUMO-2/3 により特異的に修飾されます7。SUMO化されたアクチンは、フィラメント構造を形成できず、モノマーとして核内にとどまります。その機能的な役割はまだ確認されておらず、アクチンが核内でSUMO化されるのか、SUMO化されたアクチンが核内に輸送されるのかどうかは、明らかになっていません。また、アクチン関連タンパク質の多くがSUMO化を受けます。例えば、Rac1 は、肝細胞増殖因子(HGF)に応答して、SUMO E3 リガーゼ PIAS3(活性型 STAT3 のタンパク質阻害剤)を介して、SUMO-1 の標的になります8。GTP結合型 Rac1 は優先的にSUMO化され、活性型に固定された Rac1 は細胞移動を促進します。機序はまだ明らかになっていませんが、SUMO化により、Rac1とグアニンヌクレオチド交換因子(GEF: guanine nucleotide exchange factor)との相互作用が促進されるか、GTPase 活性化タンパク質(GAP: GTPase-activating protein)との結合率が低下してGTPの加水分解が抑制されるかの、いずれかであると推測されます(これは実験的に証明する必要があります)。Rho ファミリー GTPase の活性は、GEF や GAP によって調節される他に、RhoGDI(Rho GDP 解離阻害因子)によって負に制御され、不活性型 GTPase が隔離されます。RhoGDI と GDP結合型 GTPase の結合親和性は、K138 アミノ酸残基に SUMO-1が結合することで増加します。その結果、下流のシグナル伝達により、アクチンの重合、細胞骨格の形成、細胞運動が阻害されます9

微小管と微小管結合タンパク質(MAP: microtubule-associated protein)

微小管は、細胞内で、他の細胞骨格とはかなり異なる役割を果たしており、アセチル化、チロシン化、リン酸化、SUMO化などの翻訳後修飾により広範囲に可逆的な修飾を受けます1,10。プロテオミクス解析によるスクリーニングの結果から、α-チューブリン および β-チューブリンはSUMOの基質であることが示唆されており、さらに実験により、α-チューブリンが SUMO-3 による修飾の標的であることが確認されています11。しかし、細胞内環境での、チューブリンのSUMO化による影響は、まだ確認されていません。 Cytoskeleton社でも、SUMO-2/3 アフィニティービーズ(品番: ASM24-beads)を用いて SUMO-2/3 濃縮実験を実施しましたが、検出には至らず、内在性のSUMO化α-チューブリンレベルは非常に低いと考えられます。 神経細胞で発現する微小管安定化タンパク質である Tau は、 SUMO-2/3 よりも SUMO-1 によって優先的に修飾されます12。リン酸化により、Tau の安定化作用(微小管への結合)が低下し、可溶性 tau (非結合型)が増加します。

コルヒチンによる微小管の脱重合、または、ホスファターゼ阻害のいずれかにより、 tau のSUMO化が増加するという結果から、可溶性 tau がSUMO化の優先的な標的であることが示唆されます。同様に、tau の過剰なリン酸化はSUMO化を促進し、反対に、tau のSUMO化は tau の過剰なリン酸化を促進します13。SUMO化とユビキチン化は tau の同じリジン残基(K340)を標的とすることから、SUMO化により tau のユビキチン結合部位が占有されることで、プロテアソームによる分解が回避されます13。ユビキチン化とSUMO化が競合するという考え方は、プロテアソーム阻害剤である MG132 で処理すると、tau がユビキチン化されて単量体 tau の量が増加する一方で、tau のSUMO化は抑制されるという報告によって裏付けられます12。タンパク質の機能を正反対に調節する、SUMO化の非常に興味深い例が報告されています。RNA結合性のシャペロンタンパク質である La は、モータータンパク質に結合し、順行性と逆行性両方の輸送能を示します(図1)。SUMO化されていない La は、ダイニンではなくキネシンに結合し、順行性輸送を行います。K41 残基がSUMO化されると、キネシンではなくダイニンに結合し、逆行性輸送が可能になります14。SUMO化により仲介される逆行性輸送は、結合していない La タンパク質のリサイクルに関与する可能性があります。このように、SUMO化は、La が核と神経細胞の軸索との間を双方向に輸送する際の分子スイッチとして作用しています。

図1 RNA結合性タンパク質 La による物質輸送の双方向の調節

図1 RNA結合性タンパク質 La による物質輸送の双方向の調節
A) SUMO化されていない La は、順行性に移動するキネシンに結合し、RNAを軸索の先端部に運ぶ。
B) SUMO化された La は、ダイニンに特異的に結合し、細胞体(核)に戻る。

まとめ

SUMOタンパク質が20年前に発見されて以来、多種多様な核タンパク質が同定され、広く研究されています。近年、細胞骨格タンパク質がSUMOの基質となる可能性があることがわかってきています。SUMOの標的タンパク質の同定は、修飾が可逆的で非常に動的であり、SUMO化されるタンパク質が少量であることから、実験に困難さを伴います。Cytoskeleton社では、SUMO化をはじめとして、ユビキチン化、アセチル化、チロシンリン酸化などの修飾が、標的タンパク質の機能や局在をどのように調節しているかを研究するためにご使用いただける、抗体や濃縮キットを販売しております。

参考文献
  1. Westermann S. & Weber K. 2003. Post-translational modifications regulate microtubule function. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 4, 938-947.
  2. Snider N.T. & Omary M.B. 2014. Post-translational modifications of intermediate filament proteins: mechanisms and functions. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 15, 163-177.
  3. Soppina V. et al. 2012. Luminal localization of α-tubulin K40 acetylation by cryo-EM analysis of fab-labeled microtubules. PLoS One. 7, e48204.
  4. Hay R.T. 2005. SUMO: a history of modification. Mol. Cell. 18, 1-12.
  5. Alonso A. et al. 2015. Emerging roles of sumoylation in the regulation of actin, microtubules, intermediate filaments, and septins. Cytoskeleton (Hoboken). 72, 305-339.
  6. Geiss-Friedlander R. & Melchior F. 2007. Concepts in sumoylation: a decade on. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 8, 947-956.
  7. Hofmann W.A. et al. 2009. SUMOylation of nuclear actin. Cell Biol. 186, 193-200.
  8. Castillo-Lluva S. et al. 2010. SUMOylation of the GTPase Rac1 is required for optimal cell migration. Nat. Cell Biol. 12, 1078-1085.
  9. Yu J. et al. 2012. RhoGDI SUMOylation at Lys-138 increases its binding activity to Rho GTPase and its inhibiting cancer cell motility. J. Biol. Chem. 287, 13752-13760.
  10. Song Y. & Brady S.T. 2015. Post-translational modifications of tubulin: pathways to functional diversity of microtubules. Trends Cell Biol. 25, 125-136.
  11. Rosas-Acosta G. et al. 2005. A universal strategy for proteomic studies of SUMO and other ubiquitin-like modifiers. Mol. Cell Proteomics. 4, 56-72.
  12. Dorval V. & Fraser P.E. 2006. Small ubiquitin-like modifier (SUMO) modification of natively unfolded proteins tau and alpha-synuclein. J. Biol. Chem. 281, 9919-9924.
  13. Luo H.B. et al. 2014. SUMOylation at K340 inhibits tau degradation through deregulating its phosphorylation and ubiquitination. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111, 16586-16591.
  14. van Niekerk E.A. et al. 2007. Sumoylation in axons triggers retrograde transport of the RNA-binding protein La. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 104, 12913-12918.

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Anti Cdc42,  (Mouse) , 4B3詳細データ CYT ACD03-S 1*50 UL
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Anti Cdc42, Human (Mouse) , 4B3詳細データ CYT ACD03 2*200 UL
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Anti Rac1 specific (Mouse) 詳細データ CYT ARC03 2*100 UL
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Anti RhoA w/positive control (Mouse) 詳細データ CYT ARH04 2*200 UL
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Anti Actin w/positive control, Human (Rabbit) Unlabeled詳細データ CYT AAN01-A 1*100 UG
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Anti Actin w/positive control, Human (Rabbit) Unlabeled詳細データ CYT AAN01-B 3*100 UG
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