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研究用

紡錘体 - 可視化に向けた新規ツール CYTOSKELETON NEWS 2020年10月号

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紡錘体 - 可視化に向けた新規ツール CYTOSKELETON NEWS 2020年10月号

紡錘体について

細胞分裂はすべての生物において必要なプロセスです。このプロセスにおいて欠かせない部分が紡錘体の形成であり、有糸分裂期に活発かつ効率的にそれぞれの娘細胞へと染色体を分割する機構です。紡錘体の総体的な形態は、動原体微小管束(動原体線維とも呼ばれる)とともに詳細に明らかにされています。動原体微小管束は、中心体の極から伸びて動原体と呼ばれる姉妹染色分体上の特定化された付着部位に付着し、これにより分裂中期と後期に生ずるプロセスが完了します。紡錘体の総体的な形態が明らかになっている一方で、紡錘体機能を制御する分子機構の解明は以下のいくつかの理由により非常に困難です。

  • 非常に大きく複雑で、通常、何百から何千もの微小管から構成されている
  • 最も動的な細胞骨格構造の一つである
  • 多数の微小管関連タンパク質(Microtubule-related proteins:MAPs)がこの構造の形成と機能に関与する 1, 2)
微小管の可視化ツールが改良されることで、紡錘体の時空間的な組織化、特有の紡錘体力、および動原体複合体との紡錘体相互作用を制御する機序をより深く理解することができます。

微小管は、チューブリンのad-heterodimerが付加されて形成されます。微小管の顕著な特性は動的不安定性であり、有糸分裂紡錘体形成および有糸分裂における微小管の役割などの、細胞内の多くの機能にとって重要です。微小管のもつ動的特性のため、微小管機能の研究は非常に困難とされていましたが、濁度測定、微分干渉顕微鏡(DIC顕微鏡)、および全反射照明顕微鏡(TIRF顕微鏡)と蛍光標識付チューブリンの組み合わせといった in vitroの手法により、微小管の成長速度、収縮速度、カタストロフ速度、およびレスキュー速度がより理解されるようになってきました3)。細胞内チューブリンを標識すると、その結合特性や関連タンパク質との相互関係、および動的制御に影響を及ぼす可能性があるため、細胞内微小管を研究すること自体が非常に困難なことと言えます。例えば、チューブリンに融合させた蛍光タンパク質を過剰発現させる一般的な方法は立体障害を生じ、全般的に高いバックグラウンドシグナルを生じてしまいます。この問題を回避し動的研究を進めるため、一定数の蛍光標識済みチューブリンを細胞内に微量注入したり、チューブリンの特定のイソ型上でのみGFPを発現させたりして、いくつかのチューブリンのみを蛍光標識する“スペックル”アプローチが用いられます。近年、SiRチューブリンと呼ばれる新規の蛍光標識済みチューブリン特異的プローブが、その特異性、細胞透過性、および蛍光特性により非常に注目されています4)

本記事では、SiRチューブリン技術が紡錘体研究に役立つ3つの例を紹介します。

紡錘体力の理解

染色体を中期板へ凝縮し、分裂後期にそれらを分離するために、有糸分裂では特有の力が必要となります。いくつかの研究により、紡錘体で産生された力はモータータンパク質により産生されていることが示されています。近年、Novak M.氏らは、モータータンパク質のキネシン-5が、この力を産生するだけでなく紡錘体におけるトルクをも生み出していることを発見しました 5)。彼らは、誘導放出抑制(Stimulated emission depletion:STED)超分解能顕微鏡法をSiRチューブリンと共に利用し、中期紡錘体における微小管束の形態を観察し、微小管は線維束として並べられ曲線やS字型など様々な形状を示していると結論づけました。その後、PRC1-GFP融合タンパク質を用いて固定した細胞の動原体線維を標識し、共焦点顕微鏡により観察することで、z型が積み重なった動原体線維を再構築することができ、紡錘体は微小管束の左巻きの螺旋構造をもつキラルな物体であることを特定しました。また、キネシン-5がS-トリチル-L-システインにより不活化されていると、線維束の左巻き螺旋度が低減することも特定しました。トルク力が紡錘体形成と機能においてどのような役割を担うのか興味深いところです。

 

紡錘体の時空間的な組織化

紡錘体形成は、細胞骨格ネットワーク、分子モーター、および核によって調整されています。近年、Nunes氏らは、このプロセスを時空間的に研究し、紡錘体形成を効率よく確実に行うための複数の主要な機構を同定しました6)。彼らは高解像度イメージングと3D細胞再構築と組み合わせたマイクロパターニングを用いて、この複雑なプロセスを検討し、核膜が崩壊した際に中心体が最短の核軸へと配置されるよう分裂前期に再配向されることを特定しました。この配置は有糸分裂の忠実度にも影響を及ぼす可能性があるため、理解が非常に重要です。さらに、彼らはArp2/3と分子モーターの一種であるダイニンがこの中心体移動における主要な制御因子であることを見出しました。SiRチューブリンは、紡錘体形成チェックポイントが中心体配置に影響を受けているかどうかを判定する上で非常に重要な役割を担いました。この研究より、核軸から最短の場所に配置された中心体は、Mad2をより迅速に除去し、有糸分裂の進行を調整することを発見しました。

CYTnews_October2020_01

図1. SPY555-アクチン(紫色)、SPY595-DNA(橙色)、およびSPY650-チューブリン(青色)で標識した分裂HeLa細胞を93X STEDにより画像処理した。画像はSpirochrome社よりご提供頂いた。

 

動原体共役を制御する動原体タンパク質のリン酸化

動原体は有糸分裂における主要な構造体であり、有糸分裂期に動原体線維と活発に結合します。Long氏らは、分裂中期における重合および脱重合した微小管束と動原体との相互作用を制御する機構の解読に努めました7)。Hec1タンパク質は、動原体-微小管接着界面の主要な成分であり、AURORA Bキナーゼによりリン酸化される部位を有します。Long氏らは、Hec1が脱重合した微小管を掴んだまま、重合した微小管に沿って摩擦を生じることで、Hec1のリン酸化により重合した微小管束との相互作用能力が変わることを見出しました。Hec1リン酸化模倣による、微小管への相互作用性能の変化を明らかにすることを目的とした初期の研究では、SiRチューブリンが使用されました。

まとめと今後の課題

これらの研究では、紡錘体形成と機能をより明確にするため、紡錘体がいかに重要な役割を担うかに焦点を当て、SiRチューブリンプローブを既存のツールと組み合わせて使用しています。同様に、紡錘体において重要な機構を制御するMAPsにも焦点を当てています。MAPsはGreengard氏とその共同研究者によって1975年に初めて同定され8)、それ以降、複数のプロテオミクスおよび機能研究により紡錘体形成や機能に関与する200以上もの同様のタンパク質が同定されています1)。今後、超解像度顕微鏡を用いて紡錘体の動的制御におけるMAPsの役割をより深く追求するには、MAPs用のより良い生細胞画像化ツールが必要となります。GFP融合タンパク質は、既に確立されたアプローチですが、GFPによる光毒性やシグナル対ノイズ比が問題であり、特に蛍光プローブが好まれる単一分子や高解像度顕微鏡に対しては限定要因となります。代替の融合タンパク質システムとしてSNAPタグ標識システムがあり、これらタンパク質を一連のグルタミンベンジル(BG)抱合フルオロフォアと特異的に標識することができます9)。この方法を用いれば、頑強な蛍光色素を標識できる可能性がありますが、全てのBG-プローブが同等に作製されているわけではなく、近年の報告のひとつにこれらのプローブの多くは急速な光退色と非特異的染色を生ずることを示したものもあります 10)
Cytoskeleton社では、人気の高いSiRとSPYチューブリンプローブ作製にも使用された、細胞透過性で蛍光色素にBGを抱合したBG-SiRおよびBG-SPY色素をご提供しています。特に、これらのプローブは高解像度顕微鏡との組み合わせで使うことができます(図1)。紡錘体研究に向けて、この新規ツールセットを利用することで、確立された細胞透過性かつ蛍光プローブを用いたチューブリンとMAPsの双方の標識が可能になります。

参考文献
  1. Petry S. Mechanisms of Mitotic Spindle Assembly.Annu Rev Biochem. 2016;85:659-83.
  2. McIntosh JR. Mitosis. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2016;8(9).
  3. Zwetsloot AJ, Tut G, Straube A. Measuring microtubule dynamics. Essays Biochem. 2018;62(6):725-35.
  4. Lukinavicius G, Reymond L, D'Este E, Masharina A, Gottfert F, Ta H, et al. Fluorogenic probes for live-cell imaging of the cytoskeleton. Nat Methods. 2014;11(7):731-3.
  5. Novak M, Polak B, Simunic J, Boban Z, Kuzmic B, Thomae AW, et al. The mitotic spindle is chiral due to torques within microtubule bundles. Nat Commun. 2018;9(1):3571.
  6. Nunes V, Dantas M, Castro D, Vitiello E, Wang I, Carpi N, et al. Centrosome-nuclear axis repositioning drives the assembly of a bipolar spindle scaffold to ensure mitotic fidelity. Mol Biol Cell. 2020;31(16):1675-90.
  7. Long AF, Udy DB, Dumont S. Hec1 Tail Phosphorylation Differentially Regulates Mammalian Kinetochore Coupling to Polymerizing and Depolymerizing Microtubules. Curr Biol. 2017;27(11):1692-9 e3.
  8. Sloboda RD, Rudolph SA, Rosenbaum JL, Greengard P. Cyclic AMP-dependent endogenous phosphorylation of a microtubule-associated protein. Proc Natl Acad Sci U S A. 1975;72(1):177-81.
  9. Keppler A, Gendreizig S, Gronemeyer T, Pick H, Vogel H, Johnsson K. A general method for the covalent labeling of fusion proteins with small molecules in vivo. Nat Biotechnol. 2003;21(1):86-9.
  10. Bosch PJ, Correa IR, Jr., Sonntag MH, Ibach J, Brunsveld L, Kanger JS, et al. Evaluation of fluorophores to label SNAP-tag fused proteins for multicolor single-molecule tracking microscopy in live cells. Biophys J. 2014;107(4):803-14.

New BG Substrates

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
SPY555-BG Substrate, Abs./Em. 555/580 nm CYT CY-SC204 35 NMOL
¥107,000
SPY620-BG Substrate, Abs./Em. 619/635 nm CYT CY-SC404 35 NMOL
¥107,000
SiR650-BG Substrate, Abs./Em. 652/674 nm CYT CY-SC504 35 NMOL
¥107,000
SiR700-BG Substrate, Abs./Em. 696/718 nm CYT CY-SC604 35 NMOL
¥107,000

Fluorescent Tubulin Tools

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
Tubulin, Porcine, 7-amino-4-methylcoumarin-3-acetic acid詳細データ CYT TL440M-A 5*20 UG
¥105,000
Tubulin, Porcine, 7-amino-4-methylcoumarin-3-acetic acid詳細データ CYT TL440M-B 20*20 UG
¥266,000
Tubulin, Porcine, HiLyte FluorTM 488詳細データ CYT TL488M-A 5*20 UG
¥105,000
Tubulin, Porcine, HiLyte FluorTM 488詳細データ CYT TL488M-B 20*20 UG
¥266,000
Tubulin, Porcine, Tetramethylrhodamine詳細データ CYT TL590M-A 5*20 UG
¥105,000
Tubulin, Porcine, Tetramethylrhodamine詳細データ CYT TL590M-B 20*20 UG
¥266,000
Tubulin, Porcine, HiLyte FluorTM 647詳細データ CYT TL670M-A 5*20 UG
¥105,000
Tubulin, Porcine, HiLyte FluorTM 647詳細データ CYT TL670M-B 20*20 UG
¥266,000

Live Cell Imaging Products

品名 メーカー 品番 包装 希望販売価格
SiR-Actin Kit詳細データ CYT CY-SC001 1 KIT
[50-300 slides]
¥170,000
SiR-Tubulin Kit詳細データ CYT CY-SC002 1 KIT
[50-300 slides]
¥170,000
Actin Protein (rhodamine, skeletal muscle), Rabbit, Rhodamine Isothiocyanate詳細データ CYT AR05-B 10*20 UG
¥89,000
Actin Protein (rhodamine, skeletal muscle), Rabbit, Rhodamine Isothiocyanate詳細データ CYT AR05-C 20*20 UG
¥173,000

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