タウ(Tau)は、構造的微小管関連タンパク質(MAP)であり、主に(排他的ではなく)神経軸索内の微小管(Microtubules)に局在しています。タウは、主に神経変性タウオパチー(アルツハイマー病、皮質基底核変性、前頭側頭型認知症など)における中心的な役割により、おそらく最も研究されているMAPです1,2)。タウは、最初に微小管の会合を促進するMAPとして報告され3-5)、現在では微小管安定化、微小管の束の形成、微小管依存性軸索輸送の調節、および神経突起伸長の制御などもその役割として知られています1, 2, 6-10)。しかし、どのようにしてタウが微小管機能構築を制御しているのか、生理学的に完全に理解するには至っていません。タウが微小管や他のMAPsと相互作用する手段についての最新の4報告を以下で討論します。
特に顕微鏡の技術的進歩により、どのようにタウが微小管に結合するのか、これまで例をみないほど直接的かつ単一分子での洞察が得られるようになりました9-11)。近年の、クライオ電子顕微鏡法より、タウの繰り返し微小管結合領域には拡張構造が取り入れられており、チューブリンヘテロ二量体間の相互作用を安定化するため原繊維に沿って微小管表面に結合することが示唆されました12)(図1)。それぞれの繰り返し領域にある拡張構造は二量体内および二量体間境界面にまたがっており、チューブリンヘテロ二量体間の接続ができるようになっています12)(図1)。原子レベルに近いこれらの分析により、おそらくタウの急速なオン-オフ率を安定化するものが存在せず13)、タウは微小管会合を促進するのに理想的であると提唱する研究者もいます10)。タウの速度は迅速な単一分子追跡実験により決定されました。神経由来の生細胞および初代神経細胞において、40ミリ秒間隔で迅速にオン-オフしながらタウは動的に結合、解離し、素早く近接した微小管に結合(“kiss and hop”とよばれる)します13)。微小管滞留時間(以前に報告されたものより2桁も短い14))が意外に短時間であるにもかかわらず、タウは神経突起におけるチューブリン重合化の有力なプロモーターです。これらの知見は、構造的MAPsは解体を防ぐため静的な方法で微小管表面に接着するという定説を覆すものです。
図1. タウとその構造的MAPとしての複数の役割
タウは集団(凝縮物またはアイランド)として微小管やチューブリン多量体に結合し、運動性または非運動性MAPsの結合や活性を制御する。タウは二量体を接続するチューブリンヘテロ二量体と相互作用することで二量体界面間に結合します。
A:タウ凝縮物はキネシン-1とキネシン-3のプラス末端指向の運動性を遮断するものの、キネシン-8は遮断しない。キネシン-8は凝縮物の解体を引き起こす。ダイニンのマイナス末端指向の運動性は主に妨げられない。
B:タウ凝縮物は微小管切断酵素スパスチンやカタニンをブロックします。
緑色運動:ダイニン、青色運動:キネシン
タウは長年研究されてきた構造的MAPではあるものの、他のMAPsのタウ介在性制御に関して引き続き新規の知見が出てきています。近年の研究では、微小管に局在化するタウにおいて新たな空間的かつ機能的な不均一性が報告されています15-17)。結合したタウの高密度アイランド(凝縮物ともいう)が生理的かつ可逆的に集まり、微小管を区画化するため個々の微小管が分散した領域に沿って分布し、選択的にMAP透過性の障壁を形成します15-17)(図1)。初期の報告では微小管上のタウ“パッチ”に関する記述があります18)が、Siahaanら16)は、タウアイランドはこれらのパッチとは“基本的に異なる”と仮定しました。微小管湾曲の高い領域に形成されるこの凝縮物はヌクレオチド状態の微小管格子により制御され、チューブリンのC-末端尾部に依存しています17)。タウはオン-オフ速度が速いのにもかかわらず、結合や運動性の機能(例えば、プラス末端指向のキネシンモーターやマイナス末端指向のダイニンモーター)や18-22)、非運動性MAPs(例えば、スパスチンやカタリンといった微小管切断酵素やMAP6、MAP7)16, 17)を制御します(図1)。タウ凝縮物はキネシン運動性をアイソタイプ特異的な様式で阻害します。近年の一分子イメージン研究により、タウ凝縮物が様々なMAPsとどのように相互作用するのか、さらなる洞察を得ることができます15-17)。凝縮物/アイランドはキネシン-1とキネシン-3の運動性を停止させますが、キネシン-8はタウ凝縮物を通過し、分解を引き起こします15-17)。同様に、ダイニンモーターの大部分は、一時停止後に凝縮液/アイランドを通過します16)。短縮されてはいるものの活性型の微小管切断酵素であるスパスチンとカタニンはほとんどが凝縮物より排除されているため、微小管が切断されるのを防いでいます15-17)。タウ発現はMAP7やMAP6の発現と機能に反比例します。タウ発現はMAP7やMAP6の発現と機能に逆比例します。MAP7はタウと同一の微小管結合部位をめぐって競合し、タウ凝縮物/アイランドを置換することができます15)。また、in vivoとin vitroにおいて、MAP7はキネシンベースのカーゴ輸送とキネシン-1の微小管への結合をそれぞれ正に制御します15)。結合タウのMAP7介在性破壊が生じたのち、MAP7はキネシン-1を動員して元々タウに占拠されていた微小管部位に結合させます15)。2つのMAPsはいつも拮抗性であるわけではなく、例えばMAP7とタウはいずれもキネシン-3の運動性を阻害します15)。MAP6とタウの関係については以下で議論しましょう。特筆すべきこととして、Yuanら23)は、in vivoにおいて網膜神経節細胞軸索におけるタウ発現レベルの変化(上昇または低減)は、軸索輸送速度に影響しないことを見つけました。タウによる軸索輸送制御に関するこれらの一見共通点のないデータについては、タウ / 微小管相互関係に対する“kiss and hop”機構モデルがこのin vivo結果と適合性をもつとはいえ、さらなる分析が必要でしょう13)。
ほぼ間違いなく、最も示唆に富むタウの結果がまさに何十年もタウ研究を先導してきた定説に異議を申し立てているのです。生理学的および病理学的の何れのタウ研究でも、そのほとんどが生理条件下においてタウは微小管の安定剤である、また、病理学的過剰リン酸化を受けてタウが微小管から解離することでその安定性が損なわれ解体が生ずる、という仮定のもとに始まっています1, 2, 10)。正常な軸索微小管は不安定なドメインと安定なドメインから構成24-26)されており、タウは主に前者の領域に結合しています10, 27)。これに対し、MAP6は軸索微小管の安定化ドメインに優先的に結合します28, 29)。培養ラット神経細胞においてタウを喪失させると、不安定な微小管ドメインが失われ、安定化ドメインが増大します。さらに、MAP6の発現が増大し、その軸索微小管上における分布が拡大します10, 27)。一方で、MAP6欠損では不安定微小管ドメインにおける不安定化が進み、結果としてタウ発現レベルの上昇とその軸索微小管に沿った分布が増大します10, 27)。これらの知見は、実はタウは微小管の安定剤ではなく、長鎖不安定ドメインの会合を促進しMAP6介在性安定化を妨害して微小管に柔軟性を与えるといった結果の基盤となっています10, 27)。
まとめタウは数十年前に発見されタウオパシーにおいて中心的な役割を担うものの、正常または疾患神経細胞においてタウがどのようにして微小管構造、機能、および他のMAPsへの結合を制御するのか未だによくわかっていません。この知識不足はタウだけでなく他のMAPsにも言えることでしょう。研究者の方々による微小管およびMAPの機能や相互作用に関する研究をご支援するため、Cytoskeleton社では、チューブリン重合化や結合アッセイキット、微小管生細胞イメージングプローブ、および、様々な翻訳後修飾を検出し測定できるSignal-Seeker Enrichment kitsなどをご用意しています。
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