細胞膜張力は、エキソサイトーシス、エンドサイトーシス、分裂、および運動性をはじめとする数々の細胞機能を制御します1-6) が、これら全てにおいて細胞形態の再形成を必要とし、細胞膜変形とアクチン細胞骨格のリモデリングとの相互作用に依存します1, 3, 5-9)。本ニュースレターでは、運動性関連の形態形成におけるアクチン細胞骨格と膜張力との協調的相互作用についてお伝えします。
指向性の細胞運動には細胞の前部と後部(それぞれ、最先端と後縁)においてアクチン細胞骨格の動的な再編成が必要であり、アクチン基盤の葉状仮足突起が伸展し細胞を前方に引きながら、これと平衡して接着部位の変化とRhoA介在性アクトミオシン収縮性を介した後縁における退縮が生じます8, 10, 11)。アクチン基盤の突出により運動性細胞の最先端が前方に押し出され、後縁では収縮が生じ、細胞膜が変形し、膜張力が変化します。指向性の運動はアクチン細胞骨格再編成と変形による膜張力変化のバランスに依存します8)(図1)。
図1.移動細胞における様々な力の概略図
細胞最先端におけるアクチン基盤の突出(例えば、葉状仮足)により細胞が前方に押し出され、膜張力が物理的にこの運動性に対抗します。後縁では、膜張力がアクトミオシン介在性退縮を助けます。
膜張力とアクチン細胞骨格の双方の動的再編成がどのように相互作用することで細胞の形態形成や運動性を可能とするのか、魚の角膜実質細胞または生きた無傷の角膜実質細胞の葉状仮足断片を用いた初期の2D細胞運動性実験よりひとつのモデルが提案されています8, 12)。
このモデルでは、運動性細胞の最先端内における重合化アクチンネットワークにより細胞膜が内部より押され、アクチンによる突出に物理的に対抗する膜張力が産生し、迅速に平衡化され、重合化アクチンネットワーク上に線維長単位あたり一定した力を包括的に発揮する12)と仮定しています。(図1)。細胞最先端の中央では、アクチン線維密度が高いため線維当たりの膜張力が低くなり、アクチン線維が迅速に重合化することができ最先端における突出が駆動されます。細胞の側面に向かい線維密度が低下するのに従い、膜張力誘導性負荷がアクチン重合化を失速させるまで線維当たりの抵抗が増大し、これにより細胞の前方角が構築されます12)。同様に、線維芽細胞における初期の研究より、膜張力と葉状仮足突出数が逆相関することがわかっています1)。これに伴い、移動細胞の後縁ではアクチンネットワークが分解しており、その脱重合が膜張力の増大により促進され、後縁退縮が生じます12-14)(図1)。運動性角膜実質細胞の生細胞画像処理研究より、運動性細胞において面内張力(膜内の張力自身)と膜-細胞骨格付着(接着とアクトミオシン介在性収縮性)の何れもが膜張力を制御することが報告されています15)。実際、全膜張力は両方の因子により決定します8)。Lieberらは15)、アクチン重合化が最先端で増大すると、線維のより強力な前方推進力によりより高い膜張力が誘起され、またその逆も真であることを確認しました。後縁では、膜張力はミオシン収縮レベルと逆相関し、接着力と正に相関します15)。
線維芽細胞や線維芽細胞様細胞における近年の研究より、アクチン細胞骨格と膜張力間の相互作用がさらに明らかとなりました。線維芽細胞における高解像度顕微鏡研究より16)、膜蓄積が十分である場合、葉状仮足突出の初期段階では突出長が優位であり膜張力が低いことが明らかとなりました。葉状仮足は膜上で外向きに押し、膜張力が増大して(膜内張力)、伸展する突出が細胞膜内のいかなる折り畳みや曲線をも伸ばします。膜蓄積が消耗するにつれ張力は急速に増大し、これに伴いアクチン細胞骨格が再編成され、突出長の低減が生じます16)。好中球では、移動細胞の最先端における突出増大と同時に最先端以外にもいくつかの細胞部位において膜張力の増大や突出数の低減が発生します7)。その他の線維芽細胞研究17) より、膜張力における周期的変動は葉状仮足突出形態に逆相関することが報告されています。張力が増大すると突出サイズと形が低減(幅が減少し上方に曲がる)し、張力が消散すると突出のサイズ、形、および成長活性は元に戻ります17)。アクチン関連タンパク質であるFBP17(formin-binding protein17) は、膜結合タンパク質であり、運動性COS-1(線維芽細胞様)細胞の最先端におけるWASP/N-WASP依存性アクチン核形成の活性化因子です。膜張力はその膜脱離を惹起することでFBP17機能を阻害し、張力がアクチン重合化を阻害するシグナル伝達経路を提示します18, 19)。このことから、プロアクチン会合分子の不活化により膜張力の増大がさらなる突出発生を最終的に阻害するといった負のフィードバックループが存在することが示唆されます8, 18, 19)。その他のアクチン結合タンパク質やキャッピングタンパク質もまた、細胞最先端突出を補助するアクチンネットワークの動的な組織修復を制御します20)。ホスホリパーゼD2や好中球のラパマイシン複合体2機械感覚性シグナル伝達カスケードの哺乳動物標的もまた、張力がアクチン核形成を阻害する手段を与えます。
図2.FLIPPER-TR membrane tension probe (Cat # CY-SC020)で染色した細胞膜の光寿命顕微結果
緑色は中程度の張力を示し、黄/橙/赤色は高張力下、青色はより低い張力であることを示す。画像はColom et al. 2018. のものよりご提供頂いた。
まとめ
膜張力の機能的関連性は、膜張力(および秩序や電位といった他の膜性状)がほとんど全ての致命的な生物学的プロセスに影響を及ぼすことから生物物理学的領域以上のものがあります。生細胞における張力や動的変化の測定が極めて困難であることもわかっています。課題として、2D細胞培養で得られた結果を3D細胞培養において検証すること、張力測定の際に膜張力の制御が細胞型間だけでなく細胞の状態によって如何に変動するか精査すること、などが挙げられます8)。生細胞における膜張力における変化をリアルタイムで特異的に研究できるようデザインされた蛍光機械感受性プローブが開発され市販製品が入手可能であることは非常に素晴らしいことです9, 22, 23)。Cytoskeleton社では、細胞生物学者が基礎的な細胞機能を制御するために膜張力がどのようにして細胞骨格と相互作用するかより深く探究する上で役立つ新規蛍光プローブであるFlipper-TR™をご提供しています(図2)。さらに、Cytoskeleton社では、F-アクチン、微小管、およびDNA用の生細胞画像処理プローブや、G-アクチンやF-アクチンの細胞内レベルやin vitroにおける相互作用を研究するためのBiochem Kitsをご提供しています。- Raucher D. and Sheetz M.P. 2000. Cell spreading and lamellipodial extension rate is regulated by membrane tension. J. Cell Biol. 148, 127-136.
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