ニューロンの極性は、初期発生においてニューロンで生ずる空間的、形態的、構造的、および機能的分化を描写しており、これにより単一軸索と複数の樹状突起が形成されます。軸索と樹状突起は、シナプス後細胞の樹状突起からシナプス後ニューロンの軸索へと情報を受容し、処理し、伝播するといった、ニューロンにおける方向性をもったシグナル伝達において重要な役割を担います。樹状突起における興奮性インプットのほとんどは樹状突起棘で生じます。ニューロンの極性化は、少数の神経突起形成を経て円形の新生ニューロンがその対称性形状を損失するのと共に始まります1-4。ニューロンの極性化は、1) 細胞内の主要な細胞骨格ポリマーである微小管(MTs)の極性と、2) 軸索や樹状突起に存在するMTsに沿ってキネシンやダイニンによる極性化された積荷輸送に依存します4, 5。
MTsは、プラス端にβチューブリンが露出しマイナス端にαチューブリンが露出した、α/βチューブリンヘテロ二量体から構成される本質的に極性な繊維です5-7。MT極性により、1) MT会合/解体の位置、2) 細胞内のMT関連タンパク質(MAPs、例えば+TIPsモーター)がMTsに結合する場所、3) MTsに沿ってモーターに駆動される出入りが配向されます。重要なこととして、MTsは、ほぼ全ての正常神経細胞機能や複数の神経性病理が根底となるMT破壊に不可欠です7-10。
ニューロンにおける極性
軸索内では、MTsはプラス末端が均一に軸索末端(細胞体から遠位のプラス端)方向に向いた密接に束ねられたポリマーであるのに対し、樹状突起では、MTsは極性が混在しています(不均一に向いている)11(図1)。ダイニンモータータンパク質はMTsを軸索へと輸送し、これによりプラス端が遠位に配向されますが、キネシン-6はMTsを樹状突起へマイナス端遠位となるよう輸送します5。極性が混在したMTsは主に近位の樹状突起に存在し、プラス端が突出したMTsは樹状突起の遠位領域に存在します。樹状突起棘内では、遠位のプラス端が突出した方向性をもつ動的MTsは存在時間が短く、頭棘形態やシナプス可塑性および神経伝達に関与することが報告されています12, 13。伸長軸索の遠位部末端は成長円錐で、動的なプラス端遠位のチロシン化されたMTsから構成されています14。成長円錐内は区画化されており、MTsは中央(C) と末梢 (P) ドメインに存在します。前者は安定MTsを含み、後者は動的MTsを含んでいます。MTsに沿った順行性輸送が促進されることで、必要な分子やオルガネラが進行中の軸索成長円錐に提供されます4。成長円錐の発達時に末梢ドメイン中のMTs数が増加しますが、おそらく成長円錐を前進させるための力を産生する目的であると思われます4。末梢ドメインにおけるMTsの重合、脱重合、安定化、および不安定化は、アクチン細胞骨格との動的MTsの共役、Rac1介在性の腫瘍性タンパク質18/スタスミンの活性化、およびPI3K介在性のMAPsや+TIPs4群の活性化といった数々の制御力を受ける可能性があります。末梢ドメインのMTsは、軸索と樹状突起成長に重要な過程である膜内挿入に必須です。膜への挿入を介して、既存する膜の拡張表面領域上の張力が低減します。この張力減少がないと、膜突出、成長円錐の前進、およびニューロン極性化の継続は生じません。末梢ドメインのMTsの安定化により、これらMTsに沿ったシグナル伝達分子の輸送と必要な機械力が成長円錐中に産生します。安定化された末梢ドメインのMTsはアクチン動態、膜挿入時のアクチン介在性の力発生、および成長円錐の操縦と成長を調和させます4。
図.1 軸索と樹状突起におけるMT局在化。
MTの方向性は軸索においてほぼ全体的にプラス端突出であるのに対し、樹状突起では極性が混在しており、近位の樹状突起領域ではMTsのプラス端とマイナス端突出が混在し、遠位の樹状突起領域ではほとんどのMTsのプラス端が突出している。MTsに沿ったモーター介在性輸送は局在化している。軸索ではキネシンモーター(KIF5など)は積荷を順行性で輸送するのに対し、ダイニンは逆行性で輸送する。MTsの極性が混在している樹状突起の近位では、ダイニンは積荷を双方向性で輸送する。主にMTsのプラス端が突出している遠位の樹状突起では、KIF17が積荷を細胞体より離して輸送する。
PTMsとMTの極性
軸索のMTsと樹状突起のそれは翻訳後修飾(PTMs)により極性化されます。樹状突起では、混合極性をもつMTsがチロシン化、アセチル化、および短鎖グルタミン酸化により修飾を受けますが、ほとんどのマイナス端が突出したMTsは安定しアセチル化されるのに対し、プラス端突出MTsはチロシン化され動的です15。軸索のMTs(プラス端突出)は長鎖グルタミン酸化、アセチル化、ポリアミン化、脱チロシン化、およびΔ-2 チューブリンにより修飾されます14。
モーター極性
軸索と樹状突起内では、MTsは積荷がキネシンやダイニンモータータンパク質のより順行性または逆行性で輸送される際の軌道となります(図1)。少なくともキネシンの場合は、PTMsが特異的に修飾されたMTsへのキネシンの結合優先度に影響を及ぼします。例えば、キネシン-1はプラス端配向性モーターであり、アセチル化MTsと優先的に相互作用します。これにより、キネシン-1が樹状突起から出て軸索に入ります。逆に、キネシン-3はチロシン化MTsを好み、このキネシンモーターは軸索と樹状突起の双方で機能します15。キネシン介在性(例えばキネシン-1/KIF5とキネシン-2/KIF17など)輸送は、均一に方向付けられたプラス端突出MTsに沿って生ずるのに対し、ダイニンは極性が混在するMTsに沿った輸送を媒介します7, 16, 17。近位の樹状突起内の極性が混在したMTsは、双方向的なダイニン介在性積荷輸送を補助し、樹状突起の遠位部分に存在するプラス端突出MTsはKIF17-介在性輸送を利用します17(図1)。KIF5とKIF17は樹状突起に既に局在化している積荷を輸送することができ、さらに、タキソール安定化MTsは樹状突起へのKIF5介在性の積荷輸送を行うことができます17。
まとめ
ニューロンの極性はニューロンの適切な発生、成長、および生理機能に必須です。ニューロン内において、MTとモータータンパク質の極性はニューロンの極性を構築し維持する上で必要です。しかし、未だよくわかっていないこともあります5。
- なぜ細胞質分子によっては軸索内に存在するものの樹状突起には存在しないのか。
- MAPsはそれぞれの種類の神経突起において、どのようにして異なった区分化をされるのか。
- なぜニューロンには1つの軸索に対して複数の樹状突起があるのか。
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