ヒトの中枢神経系(CNS)疾患と障害の原因を研究し強力な治療法を開発するためには、それぞれの神経病態生理学を正確に再現でき、かつ、臨床研究へと応用可能なin vitroおよびin vivoでの疾患モデルが必要です1-3。さらに、早期の神経病態生理学変化は初期診断や治療介入の最良の機会となることから、これらを研究することが非常に重要です4。ニューロンのシナプスにおける構造や機能の変化は、多くの神経変性疾患やCNS障害においてしばしば早期の病理変化となります4-7。初期のシナプス機能障害を検出するため、単一細胞での解像度をもち実験条件変化をリアルタイムで分析可能な生細胞画像診断が利用されています。本ニュースレターでは、CNS疾患や障害のin vitroやin vivo研究における生細胞画像診断の利用に関してお伝えします。
in vitroおよびin vivo生細胞イメージング実験をデザインする上で、適切なシナプス構造と機能(例えば、形態や電気的活性)をもつ健常かつ成熟したニューロンが必要です(図1)。一次イメージング標的は、早期に病態変化を受ける基質であるシナプス前やシナプス後の構造や関連タンパク質(例えば、シナプス小胞タンパク質、神経伝達物質受容体、イオンチャネル、足場タンパク質、および細胞骨格タンパク質[F-アクチン、微小管])です4(図1)。シナプス構造や機能の変化を評価する手法として、シナプス密度、神経突起長、スパイン密度、結節(神経突起が突出する細胞体上の部位)、樹状突起の分枝、および電気活性などを測定する方法が挙げられます4。
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)由来ニューロンをはじめとするin vitro培養哺乳類ニューロンの生細胞イメージングは、生物学的関連性がより大きいと推定されるため利用されており8、これによりアルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)といったヒト神経変性疾患に関連する特有の力学的かつ機能的知見が明らかとなりました。アポリポタンパク質E(apoe-E)は、ADの病態形成に関与するタンパク質として知られていますが、apoe-Eやその代謝物はニューロンの生理に果たす役割は認識されていません。25kDa断片または全長apoEで慢性的に処理した分化型SH-SY5Y神経芽細胞腫細胞は、神経突起生成(生細胞イメージングで評価した神経突起長や細胞培養密度の陽性変化)を示します9。薬剤スクリーニングの予備試験でも、この手法で利益を得ることができます。ADでは最も一般的な薬物標的が2つあり、いずれもシナプスに対して早期病理学的効果があるタンパク質であるアミロイドβ(Aβ)とタウタンパク質です5-7。近年病理学的Aβに対するいくつかの候補抗体のスクリーニングにおいて、hiPSC由来ニューロンの生細胞イメージングが使用されました。ここでは、様々な抗体培養時間や濃度における神経突起長や樹状突起分岐点の変化を定量することによって陽性免疫療法の所見が評価されました10。
別のAβ研究として、Hongら11は、死後のADヒト脳抽出物より単離したAβオリゴマーで処理した生きたhiPSC由来ニューロンを画像化しました。彼らは、長期にわたる増強記録とともに神経突起長やシナプス可塑性の変化を定量することでオリゴマーの病態生理学を評価しました。タウタンパク質は、タウ立体構造に感受性をもつ最初の遺伝的にコードされたフェルスター共鳴エネルギー転位(FRET)センサー構築を含む新規技術の的となっています。このセンサーは、生きたHeLa細胞や不死化HT22海馬ニューロンにおいて、薬理学的治療後に微小管(MTs)存在下または非存在下で野生型および病理学的変異体のタウタンパク質の立体構造をモニターします12。このタウFRETセンサーでは、MTsへのタウ結合調節、可溶性と不溶性(病理学的)タウの比率、および非病理学的形態を支持するタウ立体構造にどのように影響するかに関する貴重な定量的かつ定性的なデータを提供します。
図1. ニューロン、シナプス、シナプス活性、およびシナプス可塑性の生細胞画像診断における分子および細胞標的。
in vitro細胞培養モデルに対して、in vivo動物モデルがあります。動物全身におけるニューロンの生細胞イメージングは、しばしば二光子顕微鏡法により行われます。この方法では、相互接続されたサポートネットワークのより大きな設定内において、機能性ニューロンを自然の状態で、単一細胞解像度において観察することができます13。このように、動物における生細胞イメージングは、可視化し動的な細胞プロセスをリアルタイムで分析することができます。さらに、単一細胞in vivo画像化により、感覚入力、行動、および薬物治療に伴うニューロンの機能性応答を定量化できます13。in vivo二光子生細胞イメージングは、α-シヌクレインを標的する抗-PD薬の作用機序の探索14や、死滅または死にゆくニューロンと置換する目的で損傷生体脳領域へ胚細胞移植を行うことの実現可能性、適切なタイミング、宿主、およびドナー条件の評価15-17に利用されています。さらに、in vivoイメージングにより新しい治療アプローチが明らかにできます。PDのMPTPマウスモデルでは、生細胞イメージングにより、MPTP処理マウスにおいて皮質運動ニューロンの構造的かつ機能的シナプス可塑性がドーパミン作動性ニューロンの選択的欠損により影響を受けることが示されています。これより、運動皮質の特定領域におけるニューロン活性を調節が、PD18に関連する運動機能障害の治療となり得る可能性が示唆されます。
まとめ
生細胞イメージングは、基礎的な疾患/障害生物学だけでなく薬理学的、遺伝学的、および、行動療法介入の機能的結果についてリアルタイムで洞察を得ることができるため、CNS疾患や障害の研究において非常に有用なツールです。超解像顕微鏡や自動化生細胞イメージングの進歩と合わせると19、初期の治療的介入により停止したり回復したりできるかもしれない最初の病理学的シナプス変化に焦点をあてる比類のない機会となります。Cytoskeleton 社では、F-アクチン、微小管、DNA、およびリソソームに対する生細胞イメージング用プローブや、精製済み細胞骨格タンパク質、活性化アッセイキット、および抗体もご用意しています。