チューブリンの翻訳後修飾(PTM)のひとつであるアセチル化は、主に微小管集合体のα-チューブリン上の第40位リジン残基(Lys40)において生じます1-3。重要なα-チューブリンアセチルトランスフェラーゼにTAT1/MEC-17があります4,5。アセチル化チューブリンの脱アセチル化は、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)や、silent information regulator 2/sirtuin type 2の哺乳動物相同体であるSIRT2により媒介されます6,7。Lys40は長期にわたり唯一のアセチル化部位と考えられてきました。プロテオーム解析によるとα-チューブリンやβ-チューブリン上の他のリジン残基がアセチル化の標的であるのに対して、機能解析では微小管内腔内のLys40残基に焦点が当てられています2,8,9。本稿では、チューブリンアセチル化、微小管安定性、およびアセチル化された微小管の機能性に関して討論します(図1)。
図1. アセチル化(Ac)が誘導する微小管安定化
アクトミオシン収縮性やモーター結合により力学的負荷が生じ、微小管が折り曲げられTAT1の侵入が可能となる。TAT1がリジン残基をアセチル化することで微小管格子の可塑性が増大し、微小管が柔軟になって壊れにくくなる。
アセチル化された微小管と安定性
アセチル化は、安定化された、半減期が数時間の長命な微小管(定義は、ノコダゾールやコルヒチン誘導性脱重合に対して耐性である微小管)のマーカーです10。注目すべき点として、アセチル化それ自体は微小管の安定化を誘導しないことが挙げられます10-15。しかし、近年の遺伝子破壊研究より、哺乳動物細胞においてLys40のアセチル化が、微小管を長命にさせて、かつ安定化させることに必要であることが強く示唆されています。通常はノコダゾール処理して微小管の重合を阻害しても、アセチル化微小管は安定的に存在できますが、TAT1を欠損させると、この安定した微小管が欠損することが確認されました16。逆に、TAT1過剰発現によりノコダゾール耐性(安定)微小管が著しく増大し、チューブリン脱アセチル化酵素であるHDAC6を欠損する線維芽細胞には、より多くのノコダゾール耐性微小管が存在していました。成長過程の神経と成熟した神経の両方でみられるように6,4,15、チューブリンのアセチル化は動的微小管の亜集団(半減期が数分)にも見られることから14、アセチル化は安定化した微小管に限定されるという従来の考え方は近年覆されています。
アセチル化により安定化された微小管の機能的な重要性
アセチル化により安定化された微小管はさまざまな細胞種で確認されており、数々の細胞内組織を構成し14、数多くの生理学的な細胞機能を担っています。毛様体形成、細胞周期、および細胞シグナル伝達を始め14、神経細胞発生や神経細胞移動、タンパク質のシナプス標的およびキネシンやダイニンのモーター結合や活性においても役割を担っています6,14。さらに、アセチル化された微小管は神経変性疾患において神経機能/機能障害や細胞内輸送などと関係があると考えられています14。
これらの多様な生理学的研究にも関わらず、アセチル化により長命になり、安定化された微小管の機能的な意義はまだよくわかっていません。その役割に関しては矛盾する結果が得られており、アセチル化がチューブリン重合に関与している可能性もあります。初期の研究によると、脱重合や重合へのアセチル化の影響はみつけられませんでした17。同様に、網膜色素上皮細胞におけるTAT1欠損は、微小管の重合や組織化に顕著な影響を与えませんでした16。一方、近年の研究18より、アセチル化チューブリンのヘテロ二量体では、自発的な重合核形成の比率が低減し、脱アセチル化チューブリンに比べて自己集合が著しく遅いことが確認されました18。単一微小管の動態から、アセチル化は成長速度に何の変化も与えないものの、アセチル化微小管は脱アセチル化微小管に比べて迅速に脱重合することが分かりました18。微小管の原繊維間の側方相互作用が、アセチル化により刺激されて崩壊するために、重合核形成と自己集合が変化します。これにより重合核形成率が低減して収縮(脱重合)が加速します。アセチル化が原繊維の相互作用に影響している理由は、安定された微小管が物理的ストレスに対する応答をするときに、アセチル化が一役買っているからです(図1)。
長命で安定化された微小管は、キネシンとダイニンのモーター結合による圧縮やアクトミオシン収縮性といった物理的ストレスによるねじれを受けます19,20(図1)。in vitroでは、アセチル化により微小管が物理的ストレスから保護されることから18、圧縮を受けて折れ曲がらないように、アセチル化が局在的に起こり、安定化された微小管を物理的ストレスから保護することが示唆されます16。TAT1欠損細胞では、物理的ストレスを受けて破損が増えることにより、長命の微小管が減少します。微小管を圧縮させるもので、一番多いのはRho/ROCKが介在するアクトミオシンの収縮であり、次にノコダゾールが誘導する微小管の脱重合が続きます16,21。モーター結合も圧縮の要因となります。アセチル化により、原繊維間相互作用が弱まることで微小管の曲げ剛性(曲げへの耐性など)が低減し、微小管が物理的に安定化されます18。これにより微小管格子の可塑性が増大し、繰り返し受ける物理的ストレスによる損傷の度合いが低減します(図1)。折れ曲がる微小管部分には格子の隙間があり、物理的ストレス/収縮が生ずるとその隙間が大きくなり、微小管内腔にTAT1が侵入できるようになります。また、ここでは折れ曲がり部分(ストレスを受けている微小管領域)においてα-チューブリンのアセチル化が生じ、微小管の痛んだ部分が保護されます16,22。TAT1がいったん微小管内腔に入ると、アセチル化標的部位に対する親和性や接近性によって、または格子内での局在化によって、TAT1の動きは制御されます22(図1)。
まとめ
チューブリンのアセチル化は、多様な細胞構造や細胞種において確認されており、安定化微小管が受ける物理的ストレスをはじめ無数の複雑な細胞機能と関係付けられています。Cytoskeleton社では、細胞内アセチル化を高感度かつ定量的に測定できるSignal Seeker™ Acetyl-Lysine Enrichment Kitをはじめ、内在性の翻訳後修飾の段階を研究する試薬をご提供しています。