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軸索再生と細胞骨格 CYTOSKELETON NEWS 2018年11月号

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CYTOSKELETON NEWS 2018年11月号

軸索再生と細胞骨格

中枢神経系(CNS)における成体ニューロンの細胞骨格は、微小管(MTs)やF-アクチンを始めとする様々な構造タンパク質で構成されています。正常な細胞機能(形態、運動性、発生、輸送など)はMTsやF-アクチンのダイナミクスに依存しています。さらに、細胞骨格の機能不全は数々のCNS疾患や障害の根底にあります。例えば、軸索障害に続いて生ずる成人の中枢神経系における細胞骨格のダイナミクスは、成長円錐形成、軸索再生、および機能回復には貢献しません。成人の中枢神経系の障害回復におけるMTやF-アクチン細胞骨格の役割を理解し、軸索再生のためにこれらをどのように調節するか検討するためには、軸索障害後の細胞骨格のダイナミクスを理解する必要があります1, 2 。本ニュースレターでは、成人の中枢神経系の軸索再生におけるMTやF-アクチン細胞骨格の役割について協議します。

成人中枢神経系のニューロンでは、生理学的条件下において軸索再生は生じないといった定説があります。これに対し、末梢神経系(PNS)の損傷された軸索は障害を受けて再生されます。この違いを理解するため、1) 内因性再生関連遺伝子(RAGs)の活性化、2) 軸索再成長を阻害する外部の合図、といった成人中枢神経系における2つの顕著な再生関連シグナル伝達カスケードに焦点が当てられています1, 2

軸索を再生するには、成体ニューロンが損傷された軸索の尖端に新しい成長円錐を形成して再成長を惹起するする必要があります。この可塑性には、MTやF-アクチン細胞骨格が動的に再編成する必要があります(図1)。

PNSにおける軸索の再生は、MTsやF-アクチンが傷害に応答して軸索再生に関与する細胞内外のシグナル伝達に寄与する上で有用な手引きとなります1, 2 。特に、PNSにおける軸索切断に対して複数の細胞応答がありますが、これはニューロンが成人期に到達するとCNSでは生じない、または著しく減少します。軸索損傷はカルシウム流入を惹起し、HDAC5介在性の軸索MTsの脱アセチル化や軸索再生に必要な翻訳後修飾9-11 を始めとするカルシウム介在性シグナル伝達経路のカスケードを活性化します3-8 。その他のMTsに依存する細胞内傷害誘導性変化として、核局在化やおそらくRAGsの活性化に向けて傷害部位またはその近辺で局所的に翻訳されたタンパク質(様々なキナーゼや転写因子など)を細胞体へ逆行性輸送するものがあります1-2 。タンパク質合成や小胞、オルガネラ(ミトコンドリアなど)、およびRAGs(細胞骨格タンパク質、シナプス性タンパク質など)のMT介在性順行性輸送も生じます1-2, 10, 12-14

上述の損傷誘導性変化は成長円錐形成や傷害を受けた軸索の再生に必要です(図1)。PNSの損傷軸索は新しい成長円錐を発生しますが、安定MTsは中心(C-)ドメイン内に存在し、動的MTsは円錐尖端の末梢(P-)ドメインに存在します1, 2, 15 。PNSにおける再生プロセスとは逆に、損傷CNS軸索の遠位尖端は退縮球とよばれる異栄養性構造でキャップされており、軸索再生が妨害されます。退縮球は、脱重合型MTs、解体型MTs、アクチンやチューブリン重合体の分離のないドメイン、および安定化および動的高分子の系統的ではない分布から構成されています1, 2, 15(図1)。成長円柱の器質性ネットワークが不安定化されると、退縮球様構造へと変換されます。これらの知見より、機能障害性のMTのダイナミクスによって成体CNSニューロンが生理的状態において損傷軸索の再生を行えなくなることに寄与することが示唆されます1, 2, 15, 16。予想されたように、退縮球においてMTsが安定化されると成体CNS軸索尖端においてMT重合化が増大し、同時に退縮球形成の減少と成長円錐発生の惹起が生じます1, 2, 16-19。調節不全のMTダイナミクスは、星状細胞や線維芽細胞の成長阻害シグナル伝達カスケードのかみ合いにも関与し、損傷した軸索においてこれら線維性の瘢痕形成細胞が活性化されます1, 16。MTsのタキソールによる安定化を受けて、線維芽細胞からの細胞外マトリックスタンパク質の放出と星状細胞からの成長阻害タンパク質の放出が阻止されます1, 16, 17。したがって、MTsは再生促進機能と抗再生機能に関与すると考えられます。

CYT_BK003_2.jpg

図.1 ニューロンの成長円錐と退縮球におけるMTとF-アクチン細胞骨格系の組織化。
再生している軸索(左パネル)では、安定MTsは軸内(C-ドメイン)に存在し、成長円錐には動的MTsやF-アクチンが存在します(P-ドメイン)。MTsとF-アクチンが動的な状態では、軸索伸展に必要な葉状仮足や糸状仮足の形成や伸展/撤退が可能となります。損傷軸索の尖端において退縮球(右パネル)が形成されると、軸索再生が妨害される。球体内で分離されたドメインが失われ、MTsは脱重合するか解体する。

アクチンも軸索傷害へ応答する成人の中枢神経系において役割を担いますが、MTsに比べるとあまり明らかになっていません。アクチン結合タンパク質である非筋細胞ミオシンIIを阻害するとアクチン細胞骨格が著しく再編成され、予想通りF-アクチンレベルが低減し、糸状仮足形成が増大し、MTのP-ドメインへの突出が促進します。これらや他の効果は最終的に軸索再生を生じます1, 20 。アクチンが軸索再生に影響を及ぼす経路の少なくともひとつはRhoA GTPaseが関与し、細胞外阻害シグナルをアクチン細胞骨格の再編成に関連づけていると考えられています1, 21, 23

まとめ

成人の中枢神経系における損傷軸索の再成長に関する謎解きを行う上で、軸索再生においてMTやF-アクチン細胞骨格がどのように動的に制御されているのか完全に理解することが必要です。現在の研究によると、成人の中枢神経系の軸索再生におけるMTsやF-アクチン細胞骨格の役割は少なくとも3段階あります。

  1. 損傷ニューロンの内因性再生能力を促進
  2. 損傷関連分子やオルガネラの順行性と逆行性輸送の通路を提供
  3. 線維症に関与する分子の放出を制御1

MTやF-アクチン細胞骨格を選択的に活性化したり阻害したりできれば、成体CNSニューロンにおける損傷軸索治療研究に大きく貢献できると考えられます。研究者の方々がこれらを遂行できるようCytoskeleton, Inc.では精製アクチン、チューブリンおよび小分子GTPases、これらタンパク質の機能アッセイキット、およびMTsやF-アクチンの生細胞画像試薬といった様々な研究ツールを提供します。

参考文献
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