

微小管内部の実体
微小管(MTs;Microtubules)は、細胞の成長、分裂、形態変化などにおいて、多数の機能をもつ、ダイナミックな細胞骨格構造です。今回のレビューでは、微小管の内腔の機能的実体の可能性にフォーカスします。微小管の内部環境は、独特な生物物理学的状況になっており、側部の2nm2の孔1と末端の200nm2の入り口部分2,3を除き、細胞質の影響から遮断されていると考えられています。その生物物理学的な状態は、本稿の範囲外ですが、非常に興味深い特性(硝子体特性、電磁共鳴特性、光学特性)を持っています4。
微小管内部はどうなっているかという考察は、いくつかのグループによって展開されてきました。1960年代から1970年代に、電子顕微鏡でnmレベルの解像度で微小管の構造が研究されたことが、これらの新発見の始まりです。高度に固定された細胞の微小管内腔で、4-7nmの球状粒子が存在する証拠が発見されました5-8。粒子の存在と頻度は、細胞の種類によって異なり、神経細胞で最も多く見つかりました。また、Burton9は、細胞内微小管の速やかな解体と集合によって、粒子が内腔から排出されることも発見しました。その後30年間の過程で、硝子体低温電子顕微鏡検査又は低温電子断層撮影10により、固定していない細胞の凍結切片でも、微小管内に粒子が観察され、同様の観察が数多く報告されました。腔内の構成成分を同定することは非常に困難ですが、最近の研究でチューブリン結合タンパク質やチューブリンを調節する酵素などが発見されています。
微小管アセチルトランスフェラーゼ(TAT;Tubulin acetyltransferase)は、アセチルCoAから微小管内腔のαチューブリンのLys40へアセチル基を転移することが知られています1,11。腔内のアセチル化は微小管の安定性には影響しないと考えられていますが、微小管関連タンパク質(MAPs;Microtubule-associated proteins)の結合性、キネシンモーターの親和性(微小管表面結合サイトを含む12,13、但し、この件については最近2つのグループで議論されています11,14)、微小管の切断15、機械感覚性や繊毛の機能に有用な微小管の堅さ16,17に関連しています。TAT及びチューブリンヒストン脱アセチル化酵素(HDAC6及びSirt2)が上述の4-7nmの粒子の構成成分であるかどうかは、まだ確認されていません。しかし、TATの単量体又は二量体は粒子内の空間を埋めることができ(TATは3×6×3nmの卵型18)、MEC-17(C. elegansのTATホモログ)が微小管腔内で局在化し、微小管内壁と密接に関連しているという証拠が見つかっています16。神経細胞のMAPであるTauも、微小管内腔で結合サイトを持っていることが知られています19。
タンパク質や粒子はどうやって微小管内腔に入るのでしょうか?微小管には最初の段落で述べたように明らかな入り口(2nm2の孔と200nm2の末端)があります。しかし、どちらも限界があり、2nm2の孔からは、1000Da未満小分子20,21又は繊維状の分子しかアクセスできず、微小管末端からのアクセスは拡散によって分子が移動できる距離に限定されます22。微小管の中央部分は末端から40μm以上離れており、50kDaのタンパク質を末端に入れた場合の拡散率を理論的に計算すると、40μmの移動にかかる時間は、分子の微小管内壁との親和性に依存して、1分から1年まで幅があります22。上記ほど明確ではない入り口として、末端のほつれ10,23、トレッドミル状態の微小管との結合部の成長末端24,25、微小管の格子のすきま(硝子体低温電子顕微鏡によって最近確認されたもの17)があります(図1)。

図1 微小管内腔への入り口
明確でない入り口のうち、成長中又は短縮中の微小管で、不規則な、又はほつれた末端がin vitroで観察されていましたが、最近硝子体低温電子顕微鏡10や、デジタル蛍光顕微鏡23によってin vivoでも観察されるようになってきました。原線維が微小管のプラス末端にさらされると、微小管内腔が更に暴露され、腔内にタンパク質や粒子を送り込む際の捕捉点として機能する可能性があります。その後のトレッドミルにより、捕捉された物体は60μm/分の速度でマイナス末端へ移動することが可能になります25。このことは、tau存在下で微小管が形成される場合には、MAP tauが微小管の表面と同程度に微小管内腔にも結合サイトを持っている一方で、既に形成された微小管にtauを添加しても微小管の外表面にしかtauが結合しない19ことを説明するメカニズムの1つである可能性があります。このように、微小管内に捕捉される分子を示すための実験では、既に形成された微小管を用いるよりも、チューブリンを重合化させる反応の方が分子を取り込みやすいことがわかりました(例:品番BK029とT240のデータシートのメソッドを比較してみてください)。
要約すると、いくつかの最近の主要な研究は、微小管内には、アセチル化チューブリン、TAT、微小管安定化剤(MSAs;MT stabilizing agent、例:タキソール、ラウリマリド、ペロルシド)の結合サイト、tauタンパク質などを含む重要な分子が存在していることを示しています。このような並外れた生物物理学的な特性に加えて、最近Sahuら4によって報告された観察は、微小管内部の実体が微小管表面と同様に興味深いことを示しています。
参考文献
1. Nogales et al. 1998. Structure of the alpha beta tubulin dimer by electron crystallography. Nature. 391, 199-203.
2. Gonzales and Robbins. 1965. The homology of spindle and tubules and neurotubules in chick embryo retina. Protoplasma. 59, 377-391.
3. Bassot and Martoja. 1966. Donnees histologiques at ultrastructurales sur les microtubules cytoplasmiques du canal ejaculateur des insects orthopteres. Z. Zelforsch. 74, 145-181.
4. Sahu et al. 2013. Atomic water channel controlling remarkable properties of a single brain microtubule: Correlating single protein to its supramolecular assembly. Biosens. Bioelectron. 47, 141-148.
5. Dustin. 1978. Microtubules. Spring-Verlag, Heidelberg. 33.
6. Echandia et al. 1968. Dense core microtubules in neurons and gliocytes of the toad Bufo arenarum Hensel. Am. J. Anat. 122, 157-168.
7. Peters et al. 1968. The small pyramidal neuron of the rat cerebral cortex. The axon hillock and initial segment. J. Cell. Biol. 39, 604-619.
8. Stanley et al. 1972. Fine structure of normal spermatid differentiation in Drosophila melanogastor. J. Ultrastruc. Res. 41, 433-466.
9. Burton. 1984. Luminal material in microtubules of frog olfactory axons: Structure and distribution. J. Cell. Biol. 99, 520-528.
10. Garvalov et al. 2006. Luminal particles within cellular microtubules. J. Cell Biol. 174, 759-765.
11. Soppina et al. 2012. Luminal localization of alpha-tubulin K40 acetylation by cryo-EM analysis of Fab-labeled microtubules. PLoS ONE. 7, 1-9.
12. Dompierre et al. 2007. Histone deacetylase 6 inhibition compensates for the transport deficit in Huntingdon’s disease by increasing tubulin acetylation. J. Neurosci. 27, 3571-3583.
13. Reed et al. 2006. Microtubule acetylation promotes kinesin-1 binding and transport. Curr. Biol. 16, 2166-2172.
14. Walter et al. 2012. Tubulin acetylation alone does not affect kinesin-1 velocity and run length in vitro. PLoS ONE 7:e42218. doi:10.1371 / journal.pone.0042218.
15. Sudo and Bass. 2010. Acetylation of microtubules influences their sensitivity to severing by katanin in neurons and fibroblasts. J. Neurosci. 30, 7215-7226.
16. Topalidou et al. 2012. Genetically separable functions of the MEC-17 tubulin acetyltransferase affect microtubule organization. Curr. Biol. 22, 1057-1065.
17. Cueva et al. 2012. Posttranslational acetylation of alpha-tubulin constrains protofilament number in native microtubules. Curr. Biol. 22, 1066-1074.
18. Kormendi et al. 2012. Crystal strucuture of tubulin acetyltransferase reveal a conserved catalytic core and the plasticity of the essential N terminus. J. Biol. Chem. 287, 41569-41575.
19. Kar et al. 2003. Repeat motifs of tau bind to the insides of microtubules in the absence of taxol. EMBO J. 22, 70-77.
20. Maccari et al. 2013. Free energy profile and kinetics studies of paclitaxel internalization from the outer to the inner wall of microtubules. J. Chem. Theory Comput. 9, 698-706.
21. Ross and Fygenson. 2003. Mobility of taxol in microtubules bundles. Biophys. J. 84, 3959-3967.
22. Odde. 1998. Diffusion inside microtubules. Eur. Biophys. J. 27, 514-520.
23. Demchouk et al. 2011. Microtubule tip tracking and tip structures at the nanometer scale using digital fluorescence microscopy. Cell Mol. Bioeng. 4, 192-204.
24. Hotani and Horio. 1988. Dynamics of microtubules visualized by darkfield microscopy: treadmilling and dynamic instability. Cell Motil. Cytoskel.(now Cytoskeleton). 10, 229–236.
25. Waterman-Storer and Salmon. 1997. Microtubule dynamics: Treadmilling comes around again. Curr. Biol. 7, R369–R372.
26. Field et al. 2013. The binding sites of microtubule-stabilizing agents. Chem. Biol. 20, 301-315.
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